コロナ対応「臨時国会」さえ召集しない「国会改革」の処方箋

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 野党は臨時国会の早期召集を要求しているが、政府・与党は応じようとしない。

 通常国会の閉会(6月17日)以降、政府の新型コロナウイルス対応は「GO TO キャンペーン」をはじめ、迷走を続けている。「新型コロナ特措法」に関しても、地方からも与野党双方からも、改正の必要性が指摘されている。そんな中で国会を開かないのは、本来であればありえない対応だ。

 だが、政府・与党、霞が関の役人たちの気持ちを読み取るならば、こんなことだろう。

 国会を開けば、大臣たちは連日、議場に拘束される。役人たちは深夜・早朝まで国会待機と答弁作成を強いられる。しかも、国会で盛り上がるのはたいてい、政策論争ではない。ここ数年注目を集めたのは、「モリカケ」「桜を見る会」などの不祥事追及ばかりではないか――。

問題の本質は「与野党の茶番決着」

「国会改革」は長年、多くの人たちが唱えてきた。立派な提案がいくつもあったが、実質的に何も進んでいない。

 たとえば、質問事前通告をもっと早くしたらよいことは皆分かっていて、20年以上前に与野党で「2日前までに通告」ルールが申し合わせられた。しかし、決まったはずのことも、ほとんど守られてこなかった。

 記憶に新しいのは、昨年秋の臨時国会での「国民民主党」森ゆうこ・参議院議員の一件だ。

 3連休を挟んで質問の実質前日、巨大台風の迫る中で、深夜まで待機を強いられた役人たちがさすがに耐えかねてツイッターで不満の声をあげ、社会の関心を呼ぶ事態になった。

 国会改革のよい契機になるのでは、とも思われた。しかし、事態は全く違う方向に展開する。森議員らが「質問通告の事前漏洩」に話をすり替えて攻勢に転じ、「質問通告遅れ」の話はどこかに吹き飛んでしまったのだ。

 実はこの件は、私も巻き込まれた。私が高橋洋一・嘉悦大学教授に質問通告文書を漏洩したなどとあらぬ疑いをかけられ、批判を浴びることになったのだ(なお、このとき森議員は、国会質問当日も、私が「国家戦略特区」関連で不正を働いたなどと事実無根の誹謗中傷を行ったのだが、ここでは本題から外れるので省く)。

 文書漏洩などしていないので、おかしな話だと思っていたところ、その後、ツイッターのタイムスタンプ取り違え(高橋氏が10月15日の国会質問後に投稿したツイッターを、野党側の資料ではサンフランシスコ時間で10月14日付と表示し、事前に資料が漏洩したはずと追及していた)など、デタラメな追及だったことが判明した。

 ところが、それで結局どうなったかというと、なんと政府・与党が野党に謝罪して片が付いた。その一方、高橋氏や私にあらぬ疑いをかけたことへの謝罪はなく、事実関係はあいまいなままの不透明な政治決着だった。

 この茶番決着こそ、国会改革を押しとどめてきた問題の本質を如実に表している。

 野党がルール違反をしようと、牽強付会な言いがかりをつけようと、与党は本気で咎めて解決しようとはしない。野党の顔も立て、円滑に国会運営することが最優先だからだ。森議員の件では、役人や民間人に責任をなすりつけて決着するのが、与野党双方にとって好都合だったのだろう。

 こんなことを続けてきたから、国会改革は何も進まず、弱い立場の役人たちへのしわ寄せばかりが重なり続けてきたのだ。

 質問通告だけではない。「野党合同ヒアリング」もそうだ。

 そのときどきのテーマごとに(以前なら「モリカケ」「桜を見る会」など)、野党議員たちが党派横断で役人から説明を受ける会議だが、実態は、公開の場での役人吊るし上げと化している。役所の業務を事実上ストップさせるような大量の資料提出要求も繰り返されている。野党議員の傍若無人ぶりは目に余るが、それ以上に問題なのは、与党がこれを容認し、「政治家の代わりに役人を叩いてくれるなら、まあいいか」と卑劣に逃げ続けてきたことだ。

4つの提案

 これまでの非を難じるだけでは仕方ない。

 ともかく、与野党双方で、前向きに課題解決に踏み出してほしい。コロナ禍に対応して社会変革が進む今こそ、そのチャンスだ。

 ここ数カ月、民間ではリモートワークの導入など、これまであり得なかった変革が進んだ。海外を見れば、英国、ドイツなど、コロナ禍に対応し議会の一部オンライン化もなされている。そんな中で、日本の国会は古い世界に取り残され続けている。

 議会オンライン化ぐらいは早急に実現したらよい。さらに、それ以外にもできそうなことはいくつもある。与野党の合意がなかなかできないなら、どちらかが一方的にできることからでもやってみたらよい。

【提案1:「答弁動画」の公開】

 政府側でやってみたらどうかと思うのは、主要論点について、答弁だけ事前に収録し、「答弁動画」としてウェブ公開してしまうことだ。

 国会質疑は少し見たらわかるが、甚だ非効率だ。同じ質問と答弁が何度となく繰り返される。ふつうの会議ならば、「その話は前にしましたね」と注意されて次の話題に移るところだが、国会ではそうならない。なぜかというと、会議のトータルの時間、各質問者の持ち時間が先に決まっているからだ。答弁する側の大臣や役人たちにとって大事なのは、答弁に窮したり、不適切な答弁で追及を招くことなく、決まった時間を無事に乗り切ること。だから、同じ答弁で時間消化させてもらえるのは、迷惑どころか、むしろ有難いわけだ。

 こうした時間消化戦術は、長時間の国会拘束を正当化し、政府の機能低下を招いている。事前に「答弁動画」を公開し、それでも同じ質問をされたときは、「動画を見てください」と答弁したらよいと思う。あるいは、その場で動画再生できるようにしてしまえばよい(会議をオンライン化すれば後者も簡単だ)。

 そうすれば、価値の乏しい質問ばかりしている議員は自ずと明らかになる。逆に、むしろ答弁者側に問題があって、質問にきちんと答えていないケースも顕在化する。そうして質疑の質を向上させつつ、拘束時間の短縮を与野党で協議したらよいと思う。よく指摘されるとおり、日本の首相や大臣の国会拘束時間は、主要先進国と比べて桁外れに長い。改善の余地は十分にある。

 並行して、与野党で事前に論点整理を行う仕組みも整備したらよい。何を明らかにしようとするのか明確にし、「時間に縛られた国会質疑」から「成果を出すための国会質疑」に転換すべきだ。「答弁動画」の公開は、それに向けた一手になりうると思う。

【提案2:「それは知らない」との答弁】

 大臣たちが「それは知らない」「あとで調べて回答する」と答弁することも、当たり前に認めたらよい。

 これが許されないことになっているため、役人たちは想定されるあらゆる質問に備え、深夜・早朝まで膨大な想定問答の作成に追われる。しかし、所掌範囲だからといって、常にすべてを把握できないことは当然だ。株主総会のように年1回の機会でもないのだから、「あとで回答」にしても大きな支障はない。これが認められれば、質問通告が多少遅れたところで関係なく、答弁作成業務は大幅に減るはずだ。

 もちろん、「それは知らない」が乱発されれば、質問者側は二の矢・三の矢の質問をできず、まともな議論ができなくなる。これを防ぐためには、与野党で事前に論点整理し、重要なポイントはきちんと答弁しなければならないことにしておけばよい。

【提案3:議員レクの効率化、「野党合同ヒアリング」の廃止】

 役所の国会対応は、ほかにも効率化の余地がある。実は役所の仕事の相当部分は、数多の国会議員に同じ説明をして回ることに割かれている。霞が関・永田町の業界用語でいうところの「議員レク」だ。

 これも「答弁動画」と同様に、基本説明にあたる「レク動画」と資料を国会議員がいつでも見られるように共有したらよい。同じ説明は不要になる。

 さらに、質疑は個別に口頭で行うのでなく、テキストベースでやりとりし、必要に応じ論点整理して「質疑応答集」も公開したらよいと思う。衆参事務局を活用することもあり得よう。

「野党合同ヒアリング」は、基本的にこれで代替できるので、廃止すべきだ。最近では「感染状況」「GO TO キャンペーン」などのテーマで頻繁に開催され、決して無意味なことをやっているわけではないのだが、やり方があまりに酷い。弱い立場の役人を呼び出し、公開の場で吊るし上げるのは、一種のパワハラだ。必要な事実確認は非対面で冷静に行い、そのうえで、追及すべきことは政治家同士で追及したらよい。

【提案4:対応コストと成果の見える化】

 国会議員が役所に膨大な資料を要求し、その対応に多大なコストがかかることもよくある。議員たちは役人を無尽蔵にこき使ってよいと考えているのかもしれないが、そんな対応が政府を劣化させる。

 たとえば、私も関わっていた「国家戦略特区」関連では、森ゆうこ議員ら野党追及チームから内閣府に対し、会議の謝金支出等に関する大量の資料提出が求められた。1つ1つ個人情報を含むので、確認・処理にとんでもない手間がかかったはずだ。資料要求した森議員らは、私が「カラ会議」で不正に謝金をくすねたとの疑いを持って調べていたらしいが、さんざん調べても結局そんなものは出てこなかった。

 もちろん、この種の調査で空振りはつきもので、成果がなかったからといって全否定すべきではない。だが、その調査で役所側にどれだけ対応コストがかかったのか、一方で、どれだけの成果があったのかは、事後的に見える化すべきだ。調査した側もなぜその調査を行ったのか、説明責任を果たすのが健全な姿だろう。

訴訟になると「言っていない」

 以上のほかにも、課題はいくつもある。

 たとえば、国会では根拠のあやふやな不祥事追及にあまりに多くの時間が割かれている。

 私自身、昨年、国家戦略特区絡みで金銭をもらったなどの疑惑をでっち上げられた。当初は『毎日新聞』に誤報が掲載され(2019年6月11日『「虚偽」「根本的な間違い」の「毎日新聞」記事に強く抗議する』参照)、その後、森ゆうこ議員が国会で、私が金銭をもらった(「(原さんが)国家公務員だったら、あっせん利得収賄で刑罰を受けるんです」)などと発言した。

 まったくの事実無根であり、『毎日新聞』、森議員それぞれに名誉棄損で訴訟提起して係争中だが、驚いたことに、訴訟になると森議員は「金銭を受け取ったなどと言っていない」と主張し始めた。

 こんな問題の起きる根源は憲法上の「免責特権」(国会議員は議院での発言などの責任を院外で問われないとする特権)だが、当面できることとして、政府側に「反問権」を与えるなどがあり得る。

 このほかの提案も含め、国会改革についてはまだまだ語りたいこと、語るべきことがたくさんあるが、高橋洋一氏との最新刊の共著『国家の怠慢』(新潮新書)でも説明してあるので、そちらもご覧いただけたら幸いだ。

原英史
1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『官僚のレトリック』など。

Foresight 2020年8月21日掲載

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