復活した「ハケンの品格」が示す絶望感 13年経っても変わらない日本社会
野良犬上等フリーランスの私から見れば、毎月決まった給料が入り、面倒臭い帳簿をつけなくとも経理部や総務部が下手したら資産運用までやってくれて、年金は2階建て3階建て、福利厚生の恩恵も社会的信用もある会社員って、どんだけラクかと思う。思うが、その一方で、深夜早朝休日構わずに電話してくる上司や話の長い上司、奇声と怒号しか発しない上司、使えない割にプライドだけはチョモランマな部下、向上心を忘れて生まれてきた部下、同じ会社でなければ関わりたくない人間と、毎日顔をつき合わせなければいけない不条理を考えたら会社員どんだけ大変か、とも思う。
正社員には正社員の苦労、派遣や嘱託にはそれぞれの憂い。同じ組織の中でも決して埋まらない溝がある。いや、それにしたって、13年前に感じた憤りを再び変わらずに描いている「ハケンの品格」を観ると、メインテーマは「変わらないという絶望」なのかと勘繰る。
夥(おびただ)しい種類の資格をもち、あらゆる業務を完璧にこなすスーパー派遣の篠原涼子が、体育会系で男尊女卑な食品商社S&Fに3カ月で意識改革をもたらした「平成のおとぎ話」が2007年の話。2020年版はちょっとは成長したかと思いきや、体質ちっとも変わってねーッ!! むしろひどくなっている。営業事業部に正社員の女性がひとりだけってのも、皮肉。女性の力を活かすことができない、化石のような会社とわかる。
以前、神奈川県の「かながわ女性の活躍応援団」なる組織のポスターが話題になったことを思い出した。「女性が、どんどん主役になる」とあるが、写っているのは全員おっさん。なんだそりゃ、と総ツッコミ。
毎回いろいろとトラブルが起こるものの、篠原の機転と暗躍で収まる。多大な貢献をしているのに、評価されるどころか邪魔者扱い。日本企業特有の粘土層というか、こびりついた澱(おり)のような社長(伊東四朗)や部長(塚地武雅)しかり、ここは地獄かと思うほどの職場。
唯一まっとうな神経と思わしき小泉孝太郎も、相当頼りなく、相変わらず仕事ができるようには見えない。優しさだけで年収970万もらえんのか。調子のよさで乗り切ったか、勝地涼も主任として生き延びている。体育会系にうんざりしているコネ入社の新人・杉野遥亮(ようすけ)のほうが感覚はまっとう。
篠原と同じ派遣の吉谷彩子と山本舞香は、令和の女工哀史よろしく派遣残酷物語を展開。いくら篠原が溜飲の下がる対処やお裁きを展開してくれても、絶望が強すぎて。派遣の山本は月給10万も行かないんだよ?!
13年たっても変わらないこの会社、むしろ13年で劣化。政治と同じ。変わらないという名の絶望が蔓延。
唯一の希望の星・くるくるパーマこと大泉洋がようやっと帰ってきた。名古屋と旭川で辛酸を嘗(な)めた経験、篠原に助けられた恩義。彼は変わったんだよね? と思いたいが、どうも反省も成長もしてなさそうな気配。
直接雇用よりも派遣登録のほうが割がいいと聞いたこともある。今回は別の意味でおとぎ話になるのかな。