コロナ経済危機、切り札は「消費税凍結」 東日本大震災よりGDP減少!

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10%消費増税で、税収がかえって10兆円も縮小する

 以上は、実質消費の推移から理論的に予想される話だが、消費税が10%に上がった今、「税収」がどのように推移していくかを京都大学の藤井研究室で改めて推計した。あわせて、もしも10%に増税せず消費税が8%に据え置かれていた場合、さらには今、れいわ新選組等が主張している5%への消費税減税が仮に今年の4月から実現した場合についても計算した。

 詳細は、京都大学藤井研究室HPに掲載した報告書「税収簡易シミュレーション(2019年度~2035年度)の推計方法と結果」をご覧いただきたいが、その概要は、次のようなものだ。

【1】消費税率5%、8%、10%のそれぞれのケースでの実質消費の伸び率をグラフ1の実績データに基づいて設定(税率10%の伸び率は、これらのデータに基づいて年率0・21%と推定)。

【2】その設定に基づいて、実質消費の2035年までの推移を予想。

【3】一方で、過去のデータに基づいて、実質消費の水準と税収との関係を統計分析し、実質消費の水準から税収を求める方程式を推計。

【4】上記の【2】と【3】より、各年次の税収を推計。

(注:このシミュレーションにあたっては、輸出やデフレータは現状のまま推移すると仮定した)

 以上の想定で推計した税収シミュレーション結果を、グラフ3に示す。

 ご覧のように、10%に増税した現状のケースでは、確かに、今年度である19年度は一瞬税収が増える。しかし、20年度になれば、すぐに18年度よりも低い水準になる。20年度は確かに消費増税によって消費税収は(18年度に比して)約5兆円増えるのだが、景気が冷え込むことで法人税、所得税がそれぞれ約4兆円、約2兆円減るなどして、トータルとして1・6兆円も税収が縮小してしまうのである!

 実はこれと全く同じことが、1997年の消費増税時にも起こった。5%への引き上げによって消費税収は約4兆円増えたのだが、法人税、所得税がそれぞれ約3兆円、2兆円減るなどして、総税収は2・6兆円も減ってしまったのである。つまりこれと同じことが今回の増税で起こると計量分析的に示されたのである。

 それ以後、消費が伸び悩むことで、ダラダラと約0・5兆円ずつ税収は縮小していき、15年後(35年)には、税収は約10兆円ほど縮小してしまうという最悪の未来が予想された。

 一方、もしも19年10月に10%に増税せず、8%に据え置いたままのケースでは、19年の税収は増えず、したがって19年時点では、10%ケースよりも税収は低い水準となる。しかし8%のままなら、その後は成長はしないものの大きく冷え込むこともなく、総税収は「ほぼ横ばい」で推移することが予想された。

 その結果、10%のケースでは税収が下落していくため、今年の20年度には両者はほぼ横並びとなり(両者の差は僅か1%!)、来年の21年度には、増税しなかった8%ケースの方が増税した10%ケースよりも税収が多くなるだろうという結果となった。その後、両ケースの差はじわじわと開いていき、15年後(35年)には、増税しなかった8%ケースの方が、税収が5兆円も多いだろうと推計された。

 ただし、この8%ケースよりも圧倒的に財政を健全化するのは、今年の4月に消費税を5%減税する5%ケースであることがシミュレーションより明らかにされている。

 ご覧のように、今年の20年度に一気に消費税を5%に減税するこのケースでは、確かに消費税収が下落する。ただし、(10%ケースと比べた)20年度の消費税収の減少量は約11兆円だが、その一方で法人税、所得税、その他の税収がそれぞれ約5兆円、2兆円、1兆円と拡大し、トータルの税収減少量はわずか約3兆円に抑えられるという結果となった。これは、消費税率が5%下落することで、全てのモノの値段が実質的に安くなり、(一気に、減税分の“5%”程度も)実質消費が活性化することが原因だ。消費が活性化すれば、あらゆるビジネスの収益も上がり、賃金も実質的に上昇し、その結果、あらゆる税項目の税収が拡大するのだ。

 そして、来年の21年度には法人税や所得税がさらに拡大し、結局、トータルの税収は5%に減税したケースの方が1兆円以上も多い、という結果が示された。

 その後、税収は年間約1・4兆~1・7兆円ずつ着実に拡大していき、15年後(35年)には、80兆円の大台に乗るという結果となった。この水準は、10%ケースよりも実に約30兆円も高い。

 つまり、税収を増やして財政再建を本当に目指したいのならば、短期的には幾分の税収減を導くものの、もう翌年の2021年度にはより大きな税収をもたらすであろう5%減税を断行することが最も効果的なのである。

 ところで、今の日本でこんなに税収が増えていく未来なんて無理じゃないのか、と思う方がいるかもしれない。しかし、この5%ケースの年間の税収増加量は1・4兆円から1・7兆円程度だと指摘したが、これは過去2年間(17年度、18年度)の税収の平均増加量(2・3兆円)よりも格段に低い水準なのだ。つまりこの計算は決して極端な非現実的なものではなく、むしろ「控え目」なものである可能性すら考えられるのである。

コロナショックを乗り越え、財政を再建するために、消費税の「5%減税」「凍結」を実現せよ!

 以上の結果は、これまでの筆者の理論的主張を定量的に裏付けるものである。つまり、経済を再生させるためのみならず、「財政再建」のためにこそ、消費税増税は避けねばならないのであり、消費「減税」こそが今、最も求められていることなのである。

 しかも、このシミュレーションが示した重要な結論は、8%への減税では不十分だ、という点。本当の経済再生、財政再建のためには5%への減税が必要なのである。

 なお、以上のシミュレーションは、コロナショックの影響を含んではいないが、その点も踏まえるなら、少なくともコロナショックが完全収束するまでの間は、自民党の安藤裕議員らを中心とした若手議員たちが主張するように、消費税を「凍結」することも考慮に入れる必要があるだろう。

 もちろん、そうした大幅な減税は、「将来の子供たちにつけを回す借金を無責任に増やすだけじゃないか!」という批判にさらされるだろう。しかし、そうした批判は単なる「勘違い」の「間違い」だ。彼らのような意見が幅をきかせればきかせるほど、増税が繰り返され、かえって借金が増えていく他ない。そしてそのことは、本稿をご一読いただいた皆様なら既にご理解いただけているのではないかと思う。

 いずれにせよ、我々が将来世代に「つけを回し」てはならないのは、「借金」なのではなく、増税やコロナショック、そしてアベショックによってもたらされた「貧しい経済」と「劣悪な財政基盤」なのだ。そのためにも今、「5%減税」さらには「消費税凍結」という大きな政策転換を果たす「政治決断」が強く、求められているのである。

藤井聡(ふじいさとし)
京都大学大学院教授。元内閣官房参与。1968年奈良県生まれ。京大卒。イエテボリ大客員研究員、京大大学院工学研究科助教授、東工大大学院教授等を経て現職。専門は公共政策論。著書に『強靭化の思想』『プライマリー・バランス亡国論』等。

週刊新潮 2020年4月2日号掲載

特集「東日本大震災よりGDP減少! コロナ対策の切り札は『消費税凍結』」より

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