巨人、総額50億円の「大型補強」を検証 成功だったのか、それとも…

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失敗組は…

 一方、失敗組の代表格は、退団したマギーの穴埋めに獲得したビヤヌエバだ。前年はパドレスの正三塁手として20本塁打を記録。右の長距離砲と期待されたが、シーズン開幕後、クローズアップされたのは、打撃よりも走塁の際のラフプレーだった。

 4月9日の中日戦(ナゴヤドーム)、2対1とリードした巨人は、6回表1死一塁で小林誠司が遊ゴロを放つ。打球を処理した京田陽太が6-4-3の併殺を狙ってセカンド・堂上直倫に送球した直後、一塁走者のビヤヌエバがスライディングをしながら、二塁に突っ込んできた。左足を払われる形になり、バランスを崩して転倒した堂上は送球できなくなり、一塁はセーフに。

 2019年から新たに併殺崩しの危険なスライディングもリクエストの対象になり、与田剛監督がリクエストを要求。リプレー検証の結果、ビヤヌエバにはアウトが宣告されるとともに、「もう一度やったら退場」と警告も与えられた。

 しかし、同21日の阪神戦(甲子園)で、ビヤヌエバはまたもや問題行動に出る。4回表無死一塁、岡本の遊ゴロの際に二塁に滑り込むと、ベースに立ちはだかるようにして両手を広げる妨害行為で、糸原健斗の悪送球を誘発。しかも、このプレーに対し、審判団は阪神側のリクエスト要求を認めず、2つの進塁権を与えて、ビヤヌエバの生還を認めたため、不服とした阪神は、NPBに意見書を提出した。 

 これに対し、NPB側は「今後は守備妨害もリクエスト対象にする」と回答。期せずしてリクエストの適用範囲拡大に貢献する形になったビヤヌエバだが、肝心の打つほうでは、打率2割2分3厘、8本塁打に終わり、たった1年で退団。その後、日本ハムが巨人時代の年俸(推定2億2千万円)より格安の8千万円プラス出来高で契約した。2020年シーズンに活躍すれば、皮肉にも「長く日本で、巨人で戦ってほしい」と原監督が願ったことが、半分だけ叶うことになるのかもしれない。

 このほかの補強組では、西武からFA移籍の炭谷銀仁朗が58試合に出場し、打率2割6分2厘、6本塁打と貢献も、“3年総額6億円の控え捕手”では投資に見合わない。打撃を期待され、オリックスから獲得した中島宏之は打率1割4分8厘、1本塁打、新守護神候補だったクックも0勝2敗6セーブ、防御率4.80といずれも結果を出せず、メジャーから復帰の岩隈久志に至っては1試合も1軍登板できずに終わった。“50億円効果”と呼ぶには、寂しい現実である。

 シーズン後、巨人はFA宣言した美馬学(楽天→ロッテ)、鈴木大地(ロッテ→楽天)の獲得に動いたが、いずれも断られ、“巨人ブランド”だけでは、補強が難しくなったことを印象づけた。これまでにも、村田修一のようにFAで獲得した選手がまだ働けるのに戦力外通告を受けたり、満足に活躍の場を与えられないなどの前例から、FA組が「自分が能力を発揮できる球団でプレーしたい」と“巨人以外”を考えるようになった結果ともいえる。

 日本シリーズでバランス良くチームを強化したソフトバンクに4連敗した現実をみると、50億円の大型補強が成功だったとは言い切れない。2020年シーズンは、マネーゲームだけに頼らない「育成しながら優勝」の方針を一層推し進める必要性に迫られている。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月1日掲載

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