もはや人間はお払い箱? なぜ「バーチャルインフルエンサー」が人気なのか

エンタメ2019年8月13日掲載

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 インフルエンサーという言葉が使われるようになってから久しいが、現在、世界的に注目されているのが、「バーチャルインフルエンサー」だ。これは人工的に作り上げられたバーチャルキャラクターが、人間と同じようにSNSなどを利用して商品の宣伝を行う、というもの。バーチャルインフルエンサー業界には世界中の投資家からも熱視線が注がれており、トップ・バーチャルインフルエンサーのミケイラ・スーサには136億円以上もの資金が集まっているという。

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 インフルエンサーとは「経済・流行・価値観などに関して、多くのひとびとに強い影響を持つ人物。特に、インターネットなどのメディアを通して購買活動に大きな影響を与える人」(三省堂「今年の新語 2017」より)と定義されている。平たくいえば、「◯◯がこの商品を紹介・使用しているから、自分も欲しい!」と視聴者に思わせることができる存在のこと。企業はインフルエンサーと契約をし、自社の製品をSNS上などで紹介してもらう、というわけだ。

 インフルエンサーの代表例には、インスタグラムのフォロワー数が800万人以上で自身のファッションブランドも手がける渡辺直美や、10代から圧倒的な人気を誇る“ゆうこす”こと菅本裕子、ユーチューバーのHIKAKINやインスタグラマーのMEGBABYなどがいる。

 対して、バーチャルインフルエンサーはCGなどで制作されたキャラで、SNSで人間のインフルエンサーと同じように情報発信を行う。但し、それらのキャラの多くはバーチャルな存在ではあるが、AI(人工知能)というわけではない。実際は運営会社など「中の人」が発言や投稿を操作しているのだ。

「バーチャルインフルエンサー」という言葉がメディアの見出しを飾るようになったのはここ最近だが、そもそもバーチャルな存在が人間以上に大きな影響力を持つことは以前からあった。『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』(宣伝会議)の著者で、電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬氏は、こう説明する。

「2007年に生まれた初音ミクはコンサート会場を満員にしたり、企業とタイアップしたりなど、まさにバーチャルな人気キャラの“走り”でした。日本にはそのような下地が元々あったこと、そして昨今のインフルエンサービジネスが成熟してきたことがあわさって、いま『バーチャルインフルエンサー』という言葉が注目を集めているのだと思います」

 初音ミクのほかにも「ファイナルファンタジー」に登場するライトニングというキャラクターもルイ・ヴィトンとコラボするなど、以前からインフルエンサーのような仮想の存在はいた。だが、過去のそういったキャラクターと現代のバーチャルインフルエンサーとでは「リアルさ」が大きく異なるという。

金銭トラブルも炎上もない

「いまのバーチャルインフルエンサーは、SNSの中に生きています。つまり、他のSNSユーザーのようにアカウントを運用し、実際にそういう人がいるかのように思わせるリアルさがあります。CGなどで造形された彼らは、生身の人間のようにインスタグラムで人気ブランドに身を包み、実在するモデルや芸能人と一緒にポージングした写真を投稿しています。バーチャルインフルエンサーなのに、バーチャルの中で完結していないんです。だからこそ、一見すると生身の人間がインスタをしているようにしか見えないような感覚になります」

 天野氏は、企業が人間ではなく、バーチャルなキャラクターとタイアップするメリットを、次のように語る。

「バーチャルインフルエンサーには性格のような設定はあっても、当然ながら人格はないため、コントロールが利くという扱いやすさがあります。生身の人間だと不用意な発信をして炎上したり、プライベートで不祥事を起こすなどさまざまなトラブルが起きる要素がありますが、バーチャルインフルエンサーならば、それらはゼロに近い。企業にとってはコスパが良く、リスクが少ないということでしょう」

 また、バーチャルインフルエンサーとの親和性が高い業界にとっては、彼らは欠かすことのできないアイコンとなりつつある。

「アパレルやメイクといったファッション業界では、商材が“最先端”(モード)であることに価値があります。その点でいえば、バーチャルインフルエンサーは“最先端感”を出した演出がしやすいため、そうした業界と親和性が高いと言えるでしょう。有名バーチャルインフルエンサーの『ミケイラ』はファッション業界の案件でよく起用されていますし、最近では同じく最先端感が重要なグローバルなスマホブランドの案件もやっていましたね」

 文頭でも紹介したミケイラ・スーサ(Miquela Sousa)は、ロサンゼルスの新興企業「Brud」が制作したバーチャル上の存在。カリフォルニア州出身の19歳モデルという設定の人間そっくりな見た目をしたCGキャラで、2016年4月にインスタグラムのアカウントを開設してから、プラダのSNSプロモーションに抜擢されるなど爆発的な人気を誇っている。

 160万人のフォロワーがいるミケイラの活動は、ファッションの域にとどまらない。もちろん歌い手は別に実在しているが、2017年には「Miquela」名義で歌手デビューを果たし、音楽配信アプリ「Spotify」のチャート8位にランクイン。さらに、性的マイノリティのサポートや銃規制強化を訴える投稿など活動の内容は多岐にわたる。

「日本のバーチャルインフルエンサーだと『Imma(イマ)』が有名ですね。彼女も雑誌などに登場し、新たなファッションのアイコンとして注目されています。ただ、バーチャルインフルエンサーは海外の方が圧倒的に多い。やはり英語圏で戦うほうが、スケールが利いてビジネスになりますから。日本での盛り上がりはこれから本格化していくでしょう」

人間は変化することに価値がある

 今後、バーチャルインフルエンサーたちを利用したビジネスも多くなっていく、と天野氏は語る。

「ユーチューバーの事務所であるUUUM(ウーム)のような、バーチャルインフルエンサーを束ねる事務所がこれからは日本でも多く出てくるでしょう。例えばバーチャルインフルエンサーのみが所属するモデルエージェント「VIM(ヴィム)」などです。また、そのような組織がコンテンツ開発機能もそなえれば、今はSNSだけですが、彼らのドラマやアニメなどの動画コンテンツが制作されるといった展開も予想できます。そのように露出が多面的になれば、さらに一般に認知されていくでしょう」

 そして、最後に気になる疑問がある。バーチャルインフルエンサーの台頭によって、人間のインフルエンサーが用済みとなる可能性はないのか、という点だ。

「現在、親和性の高いファッションやコスメの領域では、確かに人間のインフルエンサーにかわってバーチャルインフルエンサーを活用するケースも見られるようになってきていますが、担っている役割が異なりますし、人間ならではの良さが逆に明示化される面もあると思っています。人は、生きていくなかでライフスタイルなどが変わっていくものですが、そうしたさまを見て、ファンはインフルエンサーに共感したり、親近感を覚えたりするのです。既に『完成』されているバーチャルインフルエンサーにはそうした要素があまり見られないと思います」

 例えば、あるインスラグラマーは旅行に関する投稿が特徴だったが、出産を機に子育ての日常を投稿する内容に変化。しかし人気は落ちておらず、むしろ子育て中の人からのフォローも増えたという。ライフスタイルの変化や成長過程にファンが自分事として共感できることが人間のインフルエンサーの強みであり、醍醐味。バーチャルは変わらないことに価値があり、生身の人間は変わっていくことに価値があるのだ。

 一方で、昨年、Twitter上で初音ミクと結婚した人の投稿が話題になったように、信じる人にとってはバーチャルな存在は実在する。そう考えると、そもそもリアルとバーチャルを分けることに、大して意味はないのかもしれない。

取材・文/沼澤典史(清談社)

週刊新潮WEB取材班