空気を読まない「長嶋一茂」と「石原良純」がなぜ人気? “水を差す”存在意義

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共通点は「挫折」?

 良純も発言によって生じる余波など気にしないようだ。2017年3月6日放送の同番組では父親をも批判した。

 当時、東京都が築地市場を豊洲へ移す問題が物議をかもしていた。そして元知事の慎太郎氏(86)は小池百合子現知事(66)の批判に応える形で記者会見を開いた。それについて良純は「記者会見をするからには、ある程度の内容がないと」などと、会見の準備不足などについて酷評したのである。

 親しい政治家の問題になると、厳しい言葉を口にしないコメンテーターもいる。一方で良純は身内にも容赦なかった。視聴者から支持されるのもうなずける。

 2人のような空気を読まない人の存在は貴重らしい。評論家・山本七平も「『空気』の研究」(1977年)でそう書いている。山本は「『空気』とはまことに大きな絶対権を持った妖怪である」と指摘した上で、空気に対抗するためには「水を差す」ことが大切だと説いている。空気を読まない意見のことである。

 先の大戦においても空気に押されたから合理的な判断が出来なかったと山本は書いている。一茂と良純は水を差せる数少ない存在なのではないか。 

 2人には一緒に出ているレギュラー番組が2本ある。「ザワつく!一茂 良純 時々 ちさ子の会」(テレビ朝日系)と「一茂&良純の自由すぎるTV」(テレビ東京系)である。加えて、レギュラーではないが、「火曜サプライズ」(日本テレビ系)などにも一緒に登場している。いずれも見どころは「モーニングショー」と同じく、天衣無縫な言葉にほかならない。どの番組でも空気を読まない。

 とはいえ、まだ2人の急ブレイクの説明がつかない。2人は以前から空気など読まないのだから。

「挫折したことが良かったのではないでしょうか。一茂さんは野球選手として一流になるまでには至らず、良純さんもまた俳優として成功したとは言えない。挫折を味わったせいで、2人の言葉は上から目線ではありません」(前出の中央大特任教授・市川氏)

 野球界のスーパースター・長嶋茂雄氏(83)を父に持つ一茂は「高校時代の小遣いは月100万円だった」とテレビで何度か明かしている。戦後文学界の寵児・石原慎太郎氏の次男として生まれた良純は幼稚舎から慶應で、神奈川県逗子市内の自宅からJR逗子駅まで毎日タクシーで通っていたそうだ。2人は銀のスプーンをくわえて生まれてきたのである。

 それだけに社会に出てからの挫折は余計に辛かったかもしれない。一方で、挫折を乗り越えたとき、人間的魅力が増したのではないか。そして、孔子が「五十にして天命を知る」と言ったとおり、五十路を迎えて自分のタレントとしての役割や持ち味をはっきりと認識したのではないだろうか――。

「言いたいことを言う」という一茂は、自分のことも隠さない。2018年5月25日放送の「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(TBS系)では1996年にパニック障害を発症し、2008年にはうつ状態に陥ったことを明かした。死まで意識したという。

 一茂の「モーニングショー」での言葉は弱者とされる人たちに優しいが、それは自分も人知れず苦しい思いを重ねてきたせいなのかもしれない。良純の言葉も社会的に弱い立場にある人たちには温かい。

 2人の人気はまだまだ高まりそうだ。

高堀冬彦/ライター・エディター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月1日掲載

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