やっぱりあったイラン・中国「秘密取引」

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 米国が主要輸入国向けに6カ月間「免除」していた措置を5月初旬に廃止し、改めて「イラン石油輸出ゼロ」を目指し始めてから初めて、中国がイラン原油を輸入した、と報じられている。

 筆者が最初に目にしたのは、イランの『メフル通信社(Mehr news agency)』の記事「Iran delivers 1st Chinese purchase since May:report」(26 June 2019, 15:39)だった。

 イランの通信社だから、お国柄から、政府の意向に反したものが掲載されるはずはない、と思いつつ読んだが、後述するが、非常に興味深い記載があった。

 さらに『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が、「China defies US sanctions by tapping Iran oil supplying」と題する記事を報じているのを見つけた(東京時間2019年6月26日4時ごろ)。

 当該「FT」記事によると、イラン石油(原油+コンデンセート=天然ガス液の一種=)の輸出量は、2018年4月のピーク280万BD(バレル/日)から減少し、主要輸入国への制裁が免除されていた2018年11月から2019年4月にかけて100万BDほどに落ち込んでいる。さらに、中国のイラン原油輸入量は、同国の輸入通関統計によれば、2018年平均が58万6241BD、2019年4月は79万2380BDだったが、5月には25万5065BDに落ち込んでいるとのことだ。

「輸入禁止」に加え、中国は米国と広範な貿易紛争に直面している。その中でのイラン原油輸入だ。一波乱あるのは間違いがないだろう。

 だが、当該ニュースに対する米国の反応はまだ出てきていない。

 大阪における「G20」(20カ国・地域首脳会議)の場で、直接やり取りがなされるのであろうか?

制裁への言い逃れ?

 イランは、かねてより「すべての手段を行使し、石油をグレー・マーケットに販売する」と公言している(『ロイター』2019年5月5日「Iran using all resources to sell oil in ‘grey market’: deputy minister」)。

 筆者は、日本がサウジアラビアおよびUAE(アラブ首長国連邦)と行っている「産油国共同備蓄」のスキームを変形させれば「グレー・マーケット」への販売が可能だろうと愚考し、当欄に『米「原油禁輸制裁」対抗でイラン・中国「秘密取引」の可能性』(2019年5月8日)を寄稿しておいた。

 ところが、どうやらすでに同じようなことをやっているようだ。

 前述した『メフル通信社』の記事の中に「Iran has been delivering significant volumes of crude oil into bonded storage in China over the last year, selling that oil to China in subsequent months」との記載があるのだ。煩をいとわず和訳すれば、「イランは昨年、中国の保税タンクに大量の原油を輸送し、その後何カ月かかけて中国側に販売した」となる。

 つまり、所有権をイランが保持したまま、中国のタンクに運び込み、それをゆっくり、少しずつ、中国側に販売した、というのだ。

 さらに、テヘランの石油関係者によって囁かれている「積み替え」操作を行い、イラン産原油を他国の原油として販売していることもやっているようだ。イラクとオマーンが、このトリックの関係国として「囁かれている」そうだが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が報じているところによると、イタリアの石油会社「エニ」が揚地渡し条件(タンカーは売主が用意)でイラク原油として購入したものが、揚地で品質チェックを行った結果、イラク原油ではない、として引き取りを拒否している、どうやら2度、3度の積み替えを行ったもので、現物はイラン原油のようだ、というニュースだ(2019年6月19日「Suspected Iranian oil caught in sanctions trap」)。

 本件の続報がないため、実態は不明だが、イランは確かに「すべての手段を行使している」ようだ。

 さらに「FT」記事に記載されているが、見逃しがちな事実を指摘しておこう。

 それは、日本が撤退した後に中国が参入したイランの「アザデガン石油開発」から、中国は見返りとして相当量の原油を引き取っているという事実だ。憲法により開発業者に「所有権」を渡すような契約は結べないため、「バイバック(買い戻し)契約」という、複雑な契約方式を採っているが、いずれにしても開発業者として「取り分」はある。

 テヘランの石油関係者によると、開発作業はすでに終わっているが、向こう数年間は20~30万BDほどの取り分があるとのことだ。すなわち、イランから見れば現金収入にはならないし、米国の制裁対象でもない原油ということになる。

 今回、イランの通信社があえて、完全制裁開始後「中国が初輸入」と報じた背景には、これは「制裁対象ではないよ」と言い逃れることができる、との思惑があるのだろうか?

 さて、では「FT」の当該記事を次のとおり紹介しておこう。

 ロンドンのAnjli RavalとDavid Sheppard、テヘランのNejmeh Bozorgmehrの共著で「Crude imports offer financial lifeline to Tehran in spite of Washington ban」というサブタイトルが付いている。

ハメネイ師にも制裁

■中国は、米国の制裁を公然と無視し、イラン原油を購入することで、イランが崩壊しつつある経済の生命線として確保したいと願っているものを供与している。

■輸入通関統計によると、中国のイラン原油輸入は毎月減少し続けているが、米国が「輸出ゼロ」を目指した方策を採っているにもかかわらず、依然としてイラン原油の輸入を継続している。

■トランプ政権が5月に制裁免除を廃止して以降、初めて中国は先週、イラン原油を輸入した。

■通信衛星イメージ会社である「プラネット・ラボ」からの情報提供を受けて、タンカーの動静を監視している調査会社「タンカートラッカーズ・ドット・コム」によれば、約100万バレル積載可能な「スエズ・マックス」サイズのタンカー「サリナ」号が6月20日、中国山東省青島付近の膠州(こうしゅう)湾の港に着桟し、その後2日間かけて揚げ荷した。

■原油販売はイランにとって、米国が昨年、画期的な「核合意」から離脱し、イランへ「最大級の圧力」である経済制裁を課しているが、その抵抗策の重要な1つである。今週、米国は新たにイランの最高指導者ハメネイ師に制裁を課している。

■「この最近のとんでもない制裁により、爆発寸前の緊張関係がそのまま続いている」と、ロンドンをベースとするオイル・ブローカー「PVM」のステファン・ブレノックは言う。

■このイラン原油の中国への輸出は、世界の二大経済国が関税と双方の市場へのアクセスを巡って争っており、自らの敵とみなす国々と取引をする国々にも経済制裁を課している米国の役割について、中国が米国と争っている中で実行されている。米国はまた、ベネズエラの石油輸出にも制裁を課しているが、中国は石油を担保に何十億ドルもの融資を行っている。

■イランは、もし「核合意」の調印国である中国、ロシアおよび欧州勢(英、仏、独)から補填としての経済的利益が得られなければ、「核合意」にしたがい規制されているウラニウムの在庫制限に違反する、と脅している。

■イラン原油の大口買主である中国の立ち位置は、事細かく注視されている。それはまた、欧州がイランとの関係を維持しようとしているが、米国からの二次制裁リスクから民間企業が消極的であるため上手くいかないこともあり、重要なものとなっている。

「もっとするだろう」

■イランの石油(原油+コンデンセート)輸出は、2018年4月に280万BDのピークを付けた後、大口買主(中国やインドなど)が制裁を免除されていたにもかかわらず、2018年11月から2019年4月にかけて、約100万BDに落ち込んでいた。

■制裁免除が廃止された後、エネルギー・コンサルタント「Facts Global Energy」(FGE)は、今月には50万BD以下に落ち込むだろう、と見ている。その内、中国が約20万BDを占める、と予測している。

■イラン政府内部の人間は「FT」に対し、制裁はイラン経済の生命線であるイラン原油販売を劇的に減少させている、だが、公の数字として明らかにされているものよりは依然として多い、と語った。

■「我々には、様々な原油販売方策がある。欧州の石油会社にも、コストはかかるが、迂回することで販売している、と聞いたら、驚くかも知れない」と、具体的取引については触れずに語った。

■「FGE」のイマム・ナッセリ氏は、「イランは、失われる収入を補填することに役立つ方策を採用しつつある」という。これには、ある産業分野への非課税措置の廃止、政府保有資産の売却、あるいは燃料補助金の削減などがある。

■しかしながらナッセリ氏は、中国が輸入している原油の大部分は、上流(石油開発)への投資に対する補填分で、イラン経済にとっての収入増を意味するものではない、と強調した。

■あるイラン人石油ビジネス関係者は、イランは、中国はこっそりと行うかもしれないが、イラン原油を購入することを確信している、と言う。

■前出の「タンカートラッカーズ・ドット・コム」の共同創設者であるサミール・マダニによれば、「サリナ」号は、米国が制裁免除を廃止してから数週間経過した5月28日ごろにカーグ島(ペルシャ湾北部にあるイランの島)で積載した。

■「これは、イランが供給しているシリア向けを除けば、5月初めに米国が制裁免除を廃止した以降、原油輸送を行う初のイラン・タンカーである」とマダニ氏は言う。「我々が追跡しているタンカーの動静を見ると、中国は向こう数日間にもっと多くのイラン原油を輸入するだろう」。

■別の、200万バレル積載可能なスーパー・タンカーが向こう24時間以内に中国・天津地域の港に着桟するとみられる、とマダニ氏は付け加えた。

■中国の輸入通関統計によれば、中国向けイラン原油の量は、2018年平均58万6241BDだったが、2019年4月の79万2380BDから5月には25万5065BDに落ち込んでいる。サウジアラビアとイラクが、その代替供給者として競争している。米国も不足分を供給している。

■イランの石油相ビジャン・ナムダール・ザンガネは今週、イラン原油の輸出が大きく落ち込んでいるというのは「全くの嘘だ」と語った。「我々の利益にならないので、数値を明らかにはしない」と、ザンガネ大臣は月曜日(24日)『ファルス・ニュース・エージェンシー』に語った。

■コメントを求めたが、米国国務省からはすぐに回答が来なかった。

岩瀬昇
1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?  エネルギー情報学入門』(文春新書) 、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 (同)、『原油暴落の謎を解く』(同)、最新刊に『超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編』(エネルギーフォーラム)がある。

Foresight 2019年6月28日掲載

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