「虚偽」「根本的な間違い」の『毎日新聞』記事に強く抗議する

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【編集部】フォーサイトの常連筆者である原英史氏について、『毎日新聞』が6月11日、事実を捻じ曲げた悪質な記事を掲載した。

 これまで様々な規制改革に真摯かつ熱意をもって取り組んでこられた原氏の人格まで攻撃するかのような記事に対し、原氏自身もフェイスブックなどで反論をしている。

 そもそも毎日新聞記者の取材がどういうもので、原氏はどう説明したのか。その経緯を原氏に明かしていただくことで、毎日新聞の記事がいかに悪質であるかの反論を書いていただいた。以下、ご一読いただきたい。

 6月11日の『毎日新聞』1面トップに、「特区提案者から指導料 WG委員支援会社 200万円、会食も」との見出しで、私の顔写真入りの記事が掲載された。

 虚偽と根本的な間違いに基づく記事であり、強く抗議するとともに、記者と毎日新聞社、コメントを寄せた識者に対して名誉毀損訴訟の提起を準備する。

あり得ない「収賄罪」のコメント

 第1に、あたかも国家戦略特区ワーキンググループ(特区WG)委員の私が「指導料」を受け取ったかのような見出しと図が掲載されている。そのような事実は一切存在しない。

 私は、記事に出てくる特区ビジネスコンサルティング社(特区ビズ社)なる会社やその顧客から、1円ももらったことはない。

 毎日新聞記者は、私が金銭を受け取った事実を探し回ったが、結局見つからなかったのだろう。記事の本文をよくよく読むと、私が金銭を受け取ったとは書かれていない。

 その代わりに、私と「協力関係」にある特区ビズ社が「200万円」を受け取ったとのストーリーに仕立てたようだが、そもそも同社と私は特に「協力関係」にあるわけではない。たしかに同社の社長は知人だが、知人が経営・在籍する会社はいくらでもある。一般にそれを「協力関係」とは呼ばない。

 それで、こんな見出しを掲げ、私が「収賄罪」相当のことをしたとのコメントまで掲載しているのは、まったくの虚偽というほかない。

「会食」云々も、私は毎日新聞記者の取材に対し、きちんと明確な根拠を示して否定した。それにもかかわらず、虚偽の記事が掲載されたことは、本当に遺憾だ。

あまりに悪質な記事

 第2に、毎日新聞は、「提案を審査・選定する民間委員」が「提案する側の法人を直接指導」したことが問題だ、と言っている。これは根本的な間違いだ。

 規制改革のプロセスで、特区WGや規制改革会議は、規制改革の提案を受けることがある。これは、「審査・選定」を行っているのではない。

 おそらく毎日新聞の記者は、規制改革プロセスと、補助金申請や許認可などのプロセスの区別がついていないのだと思う。

 補助金申請などのプロセスの場合、受け手と申請者は、「試験官と受験生」の関係だ。受け手は、申請を受けて厳正に審査し、どれを採択するかを選ばなければならない。だから、両者は遮断されなければならず、受け手が特定の申請者に助言するようなことはあってはならない。

 一方、規制改革のプロセスで提案を受けるのは、現行規制の問題や背景事情を理解し、改善のアイディアを広く求める目的だ。規制改革プロセスの本丸はその先にある規制所管省庁との折衝で、提案のヒアリングは折衝の準備のために行う。そして、規制所管省庁との折衝を経て、規制改革が実現すれば、提案者だけではなく、社会全体がその利益を受ける。提案者に限らず、ほかの事業者も新たなルールの適用を受ける。

 こうした目的だから、提案者に委員が助言するのは、不適切でも何でもない。むしろ本来の務めだ。委員と提案者は、規制という壁に向かって同じ方向を向いて取り組む「パートナー」の関係だから、規制所管省庁との議論に備えてより良い提案にブラッシュアップしていくのは当然だ。ヒアリングの会議の中で助言を行うこともあるし、事前に求められれば助言する。

 私は、特区に関する助言や情報提供は、さまざまな企業・自治体・団体に対して、広く行ってきた。求められれば、可能な限り対応してきた。その中に、特区ビズ社やその顧客があった。それは、「協力関係」でも何でもない。

 私は、マスメディアが、政府の業務に関して不正がなされていないか厳しくチェックすることは、社会の根幹をなす任務だと思っている。それが最大限果たされてほしいと願ってもいる。だから、今回の記事掲載に先立ち、毎日新聞記者から取材があった際は、誠実に対応し、正確な事実を伝えた。情報提供と助言を行うことは、特区WG委員の務めであることも伝えた。

 それにもかかわらず、虚偽と間違いに満ちた記事が掲載された。私が「収賄罪」相当のことをしたとのコメントまで記載された。あまりに悪質な記事であり、怒りを禁じえない。

 これまで、特区WGや規制改革推進会議の委員を務め、少しでも社会のためになるように、自分なりに全力を尽くしてきた。その結果、こんな記事が掲載されたと思うと、本当に情けなくてならない。

意図的な悪意ある引用

 以下、詳しく補足しておく。

(1)特区に関する情報提供・助言について

 情報提供・助言は、不適切なことでも何でもなく、委員の務めだ。

 私は、依頼があれば、知り合いであろうとなかろうと、時間的・物理的に可能な範囲で対応するよう最大限努めてきた。

 もちろん、こうした情報提供・助言に対し、報酬をもらうことはない。委員の務めの一環ということもあるが、それ以前に、その程度の情報提供・助言で報酬を払おうとする人はまず存在しない。講演の場合は話が別だが、私は念のため、特区制度や最新動向について、単に情報提供を求められる講演(私個人の見識開陳を求められる講演ではない)と判断したときは、講演の謝礼も辞退している。

 金銭の代わりに食事の接待などを受けることもない。もちろん、知人か否かを問わず、私は特区や規制改革制度の活用を推奨してきたから、私の周囲にも規制改革提案を過去にしたことのある人は数多くいる。そういう人たちと食事ぐらいはするし、その場合、社会常識に従って支払いをする。つまり、割り勘や、交互に負担などだ。

 しかし、情報提供・助言の御礼として食事をご馳走になることは決してない。そもそも、そんなことをしようとする人にこれまで出会った記憶がないが、誤解を受けかねないときには割り勘を徹底するなど、間違っても誤解を招かないよう、私自身、念には念を入れて慎重に対応してきた。

「収賄罪」相当のことをしたなどと記事を書かれて、本当に残念でならない。

(2)福岡の学校法人関係者との会食について

 記事では「料理屋で会食し、法人が負担した」と記載されているが、事実と異なる。

 2014年11月29日は、15時まで福岡市中心部で福岡市主催の会議があった。そのあと17:35の福岡空港発のフライトで東京に帰った。同じ行程で出張していた内閣府次長が17:15発の便だったので、それに間に合うよう、遅くとも16時頃には一緒に空港に向かった。その間に会食などしたわけがないことを、記者にも伝えたはずだ。

「大皿が並ぶカウンター席」やら「かっぽう料理屋でふぐ」など、あたかも私が食事の供応を受けたかのような記載があるが、いい加減な記事を書くのはやめてもらいたい。

 私がインタビューで、「食事ぐらいは行ったと思う」と答えたことになっているが、これも事実と違う。私は最初に面談で取材を受けた際、突然数年前の食事の有無を聞かれたので、「記憶にないが、一般論として、食事ぐらい行くことがあったかもしれない」との趣旨の回答をした。そのあとにフライト時間を確認して上記の回答をしたはずだ。誤った引用がなされたことも、極めて遺憾だ。

 また、「提案した人と飯も食うな、金銭関係も一切なしにしろと言われたら、僕は社会で生きていけない」との引用もされている。これは、私は、知り合いであろうとなかろうと、規制改革提案を行うよう広く呼び掛けてきているので、知人に提案を行ったことのある人は多く、そうした人と食事ぐらいはするし、全く関係のない取引をしていることもある、と説明しただけだ。提案の対価として食事や金銭授受がありうるようなことは言っていない。

(3)特区ビズ社との関係

 経営に携わったことはなく、特に「協力関係」になく、1円ももらったことがない。

 同社の社長は、私の以前からの知人であり、また、私がかつて代表を務めていた政治団体から同社に、一時期、事務作業などの業務を委託し、その一環で登記上の住所もおいていたことがある。

 しかし、知人が経営ないし在籍する会社は数多くある。また、私自身も複数の企業や団体で役職を務めているから、それらの間で何らかの取引関係のあることはしばしばある。特殊な「協力関係」でもなんでもない。

 また、私が「特区ビズの顧問のような存在」とのコメントが記載されているが、もちろん事実ではない。そんな誤解を招くような発言や振る舞いをすることもない。私は、特区ビズ社とその顧客が一緒にいる場で、情報提供・助言を行ったことはあった。同社に限らず、事業者がコンサルタント会社や弁護士などと一緒に相談に来られることはよくある。それらの間でどんな契約がなされているかまでは関知しようがない。

「取材ルール」も再考を

 最後に、取材の手法について触れさせてほしい。

 今回の記事掲載に先立ち、毎日新聞記者の方々は、私の知人、関連取引先や、何らかの接点のあった人(1回会ったことのある程度の人も含め)に相当広範囲で取材活動をされた。それも多くは、通常の取材依頼をするのでなく、勤務先や自宅近辺に長時間張り込んで突然話しかけるなどの形でなされた。相当数の知人等から「気持ちの悪い取材をしつこく受けているが、何なのか」などと苦情を言われた。

 私は、マスメディアが政府をチェックする役割には、最大限の敬意を払っている。そして、私は政府の会議委員を務めている立場だから、取材を受ける責任があると思っている。だから、路上で急いでいるときに突然話しかけられても可能な範囲で対応したし、その後も時間をとって取材を受けた。

 だが、私の知人らは、特にそんな責任は負っていない。犯罪の容疑がかかっているわけでも何でもない。それにもかかわらず、

■ある知人は、実家を突然記者の方に訪問され、高齢のご両親は何があったのかと動転されることになった。

■別の知人女性は、周辺で「自宅はどこか」「出身大学はどこか」「結婚しているのか」などと聞きまわられていることを知り、とても不安な日々を過ごすことになった。

■ほかにも、これまで取材など全く受けたことのない相当数の知人たちが、突然張り込みや待ち伏せを受け、不安に苛まれた。

■私から記者の方には、「私が取材を受けるので、私の知人らの生活の平穏を害する取材はやめてほしい」とお願いしたが、聞き入れていただけなかった。

 真実を見出すため、ときには、取材対象者の私生活にまで踏み込み、不意打ちで取材し、強い口調で誘導的な質問をするといったことも必要なのかもしれない。それは理解しないわけでない。しかし、だからといって、広く一般の人の生活の平穏を無際限に害してよいわけではないと思う。

 マスメディアの側でも、ぜひ取材ルールのあり方について、お考えいただけないかと思う。

原英史
1966(昭和41)年生まれ。東京大学卒・シカゴ大学大学院修了。経済産業省などを経て2009年「株式会社政策工房」設立。政府の規制改革推進会議委員、国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問などを務める。著書に『岩盤規制―誰が成長を阻むのか―』、『官僚のレトリック』など。

Foresight 2019年6月11日掲載

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