ポンペオ国務長官「上院議員選出馬検討」で懸念されるトランプ大統領の「独善性」

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【ワシントン発】 トランプ政権が2年前の2017年1月に始動してからちょうど2年が経過して折り返し点を過ぎたが、閣僚及び閣僚級高官ポストの約半数がすでに政権を去るという異例の事態となっている。

 トム・プライス厚生長官、ラインス・プリーバス大統領首席補佐官、ジョン・ケリー国土安全保障長官(大統領首席補佐官に横滑り後、辞任)、スティーブ・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問、レックス・ティラーソン国務長官、デビッド・シュルキン復員軍人長官、アンドリュー・プルイット環境保護庁(EPA)長官、ジェフ・セッションズ司法長官、ライアン・ジンキ内務長官、ジェイムス・マティス国防長官、ニッキー・ヘイリー国連大使、ジョン・ケリー大統領首席補佐官らが、1期目の折り返し点にすら到達することなく、ドナルド・トランプ大統領に更迭され、あるいは自ら政権を離れた。

 対照的に、トランプ政権発足当時から現在も政権に残っている主要閣僚としては、スティーブ・ムニューチン財務長官、ウィルバー・ロス商務長官、イレーン・チャオ運輸長官、リック・ペリー・エネルギー長官、ベン・カーソン住宅都市開発長官、ロバート・ライトハイザー米国通商代表部(USTR)代表らに限られ、トランプ政権の閣僚がいかに流動的であるかを改めて認識することができる。

「上院議員選」挑戦の過去も

 そうした中、政権3年目を迎えようとするこのタイミングで、再び主要閣僚人事関連の注目すべき動きが明らかになっている。

 トランプ政権の主要閣僚の中でトランプ大統領の信頼が最も厚いとみられているマイク・ポンペオ国務長官が、辞任して2020年に行われるカンザス州選出上院議員選挙への出馬を真剣に検討していることが明らかになったのである。

 昨年末、トランプ大統領がシリア駐留米軍の撤退方針を突然決定したことを受け、中東地域の米国の同盟国の間に動揺が広がっていた。そのためポンペオ国務長官は、トランプ政権の対中東政策に対する同盟国の懸念を払しょくする目的で、1月8日から15日の8日間の日程で中東9カ国を歴訪していたが、帰国したばかりのタイミングで、上院議員選出馬を検討していることが発覚した。

 カンザス州選出の現職共和党上院議員パット・ロバーツ氏は、2020年に改選期を迎えるが、5選を目指さず、任期を満了する2021年1月に政界から引退する意向を、第116議会が招集された翌日の1月4日に明らかにした。

 2020年11月に実施されるカンザス州選出上院議員選挙は、ロバーツ上院議員の不出馬表明を受けて現職不在の「オープン・シート」となる中で、同氏の後継者としてポンペオ長官の名前が浮上しており、上院共和党指導部を率いるミッチ・マコネル院内総務(ケンタッキー州選出)も、ポンペオ長官に対して上院選出馬を促していると関係者は説明している。

 2008年大統領選挙の投票日の約1カ月半前にリーマンショックが発生し、米国が金融危機に直面する中で政権を始動させたオバマ前政権は、米議会上下両院で与党・民主党が多数党の立場を支配する中、政権発足の翌月の2009年2月には、大規模財政出動を可能にした「2009年米国復興・再投資法(ARRA)」を成立させるとともに、2010年3月には「医療保険制度改革関連法(通称オバマケア)」を成立させている。こうしたオバマ政権下での連邦政府の財政支出が大幅に増大する状況に反発するかたちで、全米各地において自然発生的に保守派有権者の草の根運動「ティーパーティー(茶会党)旋風」が吹き荒れた2010年中間選挙で、ポンペオ氏はカンザス州第4区選出下院議員選挙で勝利し、翌11年1月から下院議員として3期6年在職している。

 中西部カンザス州は共和党の支持が強固な「レッドステート(Red State)」であり、ポンペオ長官は同州選出下院議員という経歴もあり、抜群の知名度を誇っていることも、2020年に実施される同州選出上院議員選挙への関心を示している背景の1つと考えられる。

 実際、ポンペオ長官は、下院議員当時の2016年、現職共和党上院議員のジェリー・モラン氏に挑戦するために共和党上院議員予備選挙に出馬することを真剣に検討していた過去がある。

 同州選出上院議員選挙で民主党候補が勝利したのは、世界大恐慌の最中に行われた1932年に当選したジョージ・マギルが最後であり、ポンペオ長官が出馬を決断した場合、共和党候補の指名を獲得し、本選挙でも勝利する可能性は極めて高い。

信頼と影響力

 ポンペオ国務長官は、トランプ政権が発足するとともに中央情報局(CIA)長官に就任し、ティラーソン国務長官が2017年3月にトランプ大統領により更迭されると、後任に指名された。トランプ大統領に対する機密ブリーフィングを通じて、国際情勢や外交のみならず、元下院議員としての経験に基づき内政面でも助言を行うことで、トランプ大統領から絶大な信頼を獲得するに至っている。

 トランプ大統領からのそうした信頼を象徴するのは、上院外交委員会での次期国務長官指名承認公聴会が開催される直前の2018年4月に、CIA長官の立場のまま復活祭(イースター)休暇を利用して北朝鮮の首都・平壌を極秘訪問し、同年6月のシンガポールでのトランプ大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長との史上初の米朝首脳会談の地ならしをしたことである。

 対中東政策では、トランプ政権はイスラエルやサウジアラビアとの関係強化を図っているが、その背景には、中東地域において覇権を拡大しつつあるイランを封じ込める狙いがある。

 オバマ前政権下で、イラン核問題を巡りイラン政府と交渉を重ねた結果、P5+1(国連安全保障理事会常任理事国の米英仏中ロ5カ国と独)はイラン政府との間で、イランがウラン濃縮活動を凍結する見返りとして対イラン経済制裁を解除する「イラン核合意」に調印し、翌2016年1月に「包括的共同行動計画(JCPOA)」が発効した。だが、JCPOAは米国が締結した最悪の合意であるとして、2016年大統領選挙キャンペーン中から同合意の破棄を訴えていたのがトランプ氏であった。ティラーソン国務長官(当時)はマティス国防長官(当時)らとともに、米国がJCPOAから離脱することに対して慎重な立場を示していたが、ティラーソン氏が更迭され、後任の国務長官にポンペオ氏が就任した翌月の2017年5月、トランプ大統領はJCPOA離脱と対イラン制裁措置の再発動を決定している。

 こうした対イラン強硬路線を、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とともに推進したポンペオ国務長官の役割は非常に大きなものであった。

魅力的な転身

 任期4年の折り返し地点を過ぎたばかりのトランプ政権の不安定さを考慮すると、ポンペオ国務長官も遅かれ早かれ政権から離れて上院議員を目指すのではないかと憶測されるのは当然である。

 実際、ポンペオ長官は現在55歳であり、将来を見据えると、共和党支持が強固な「レッドステート」のカンザス州選出上院議員として6年間の任期を確保することは魅力的に映る。

 だが、トランプ大統領が絶大な信頼を寄せているポンペオ国務長官が政権を離れる決断をした場合、対北朝鮮政策や対イラン封じ込め政策といったトランプ外交全般に多大な影響が及ぶと予想される。

 加えて、極めて忠誠を尽くしている主要閣僚をトランプ大統領が失う結果、トランプ大統領の独善性にさらに拍車がかかることが懸念される。

 そうした観点からも、ポンペオ国務長官の今後の去就をよくよく注視しておかなければならない。(足立 正彦)

足立正彦
米州住友商事ワシントン事務所 シニアアナリスト。1965年生まれ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より、住友商事グローバルリサーチにて、シニアアナリストとして米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当し、17年10月から現職。

Foresight 2019年1月28日掲載

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