「元競輪選手」中国・海南島体験記(2)「驚くべき中国の発展スピード」

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【筆者:豊岡哲生・海南大学経済学部国際貿易学科3年】

 前回、中国海南島の留学体験を書かせていただいたが(2018年1月23日「中国『海南島』の大学に留学した『元競輪選手』奮闘記」参照)、今回はもう一歩踏み込んで経済やトレンド、中国の習慣などに触れてみたいと思う。

感動すら覚えるITの発達

 前回の記事でも中国のITの発達について触れたが、ますますパワーアップしてきている。淘宝(タオバオ)などのECサイトでの商品の問い合わせについては、特異な質問以外は基本的に人工知能が答えていて、質問に対してすぐに返答してくれる。

 最近新たに始まったサービスですごいのが、駐車場料金の電子マネーによる支払いや無人コンビニだ。

 駐車場の各所にQRコードが貼ってあり、車の中から携帯のカメラでQRコードを読み取り、自分の車のナンバーを入力して、支付宝やwechatの電子マネーを使って支払い完了、カメラでナンバーを認識するので駐車場を出る時もすんなり出ていける。もうこれには驚きを通り越して感動である。

 上海では、レジすら通す必要のない無人コンビニも始まっていて、QRコード認証で入店し、商品を手に取る動作や、バッグに入れる動作をセンサーで認識し、レジを通すことなく、そのまま商品を持って店を出るだけで、電子マネーの口座から自動で支払いが完了する。こういったサービスも何ヶ月かしたら、すぐに海南島に入ってくるだろう。

 今こういった新しいサービスを開発しているIT企業の多くが、中国のシリコンバレーと呼ばれる「深セン」に集中しており、中国全土から優秀な若者が集まり、急速な発展を遂げている。約3万人の小さな漁村が、約30年で1200万人の巨大都市に変貌している。

 深センの平均年齢は 33.6 歳と若く、65歳以上の人がわずか3%しかいないため、スマートフォンを使えない人をほとんど無視して社会制度を作ることができる。こういった環境で若者達が作った使いやすい便利なサービスがどんどん全国に広がっていくのである。

 もうすでに中国は、コピー製品を量産する模倣の国からイノベーションの国へと昇華していっている。

現金は淘汰される時代

 これだけITや街の発展のスピードが速いとついていくのに大変そうだが、電子マネーの使い方さえ理解していれば、誰でも使いやすいサービスになっているので、老若男女問わず、皆すぐに対応していっている。

 2年ほど前までは、まだ現金を使っていたが、今は現金を持つ必要が全くなくなった。というより、財布を持つ必要がなくなった。銀行のカードが電子マネーに連結しているのでカード類を持ち歩く必要もなく、会員カードやポイントカードも電子化され、すべて携帯1つで完結できる。

 それよりも携帯の充電がない方が困る。皆が電子マネーで支払うので、お店側もあまりおつりを用意しておらず、店員さんを煩わせることになってしまう。買い物、タクシー、水道光熱費の支払いなど、あらゆる支払いを電子マネーで行うため、レストランやショッピングセンターなど、至る所で充電設備が充実している。

 私も現金はしばらく見ていない。もう現金は完全に淘汰される時代だ。

5台に1台はベンツやBMWなどの高級車

 中国人はお金持ちが多いというイメージだが、中国人自身までもが言うように中国人は本当にお金持ちが多い。私が住んでいる海口市においては、路上を見渡すと、大袈裟ではなく本当に5台に1台はベンツやBMWなどの高級車である。他にもランドクルーザーやレンジローバー、ポルシェのカイエンなど、高級SUVもレストランやホテルの周りにずらりと並んでいる。

 避寒地である海南島は、冬に富裕層が大勢訪れるため、冬に海南島にいる中国人は特にお金持ちが多い。サッカーのデビッド・ベッカムや世界的に有名なDJを招待するなど、観光地化もどんどん進んでいる。

 ただ、中国の場合、人口が日本の10倍のため、お金持ちもたくさんいるが、その分貧しい人達もまだまだたくさんいることを忘れてはならない。貧富の差もかなりあり、国民全体が平均的な暮らしをできるようになるには、モラルなども含め、まだまだ時間がかかりそうだ。

海南島で事業を行うメリット

 海南島も発展してきたとはいえ、農業や観光業以外はまだまだ目立った産業がない。そのため政府が街を発展させようと中小企業への融資や援助を積極的に行っている。

 海南省は経済特区に指定されており、規定の売上額やアプリのユーザー数、成長率を達成することで“奖励”(ジャンリー)と呼ばれる助成金や補助金をもらうことができる。その他にも、税金の優遇や無料でオフィスを借りることができるなど、ビジネスを行うにはたくさんのメリットがある。

 上海や深センでは大企業しか相手にされないが、海南島では、小さな会社でもこういった援助を受けることができ、そういった制度を利用して、事業を広げている会社も多い。

 海南島に限ったことではないが、中国でも就職難が深刻化しており、若者の起業を推進しているという背景もある。

どうして爆買いをするのか

 少し古いが、中国人の「爆買い」について触れてみたい。

 私は爆買いについて漠然と中国の富裕層が余ったお金で中国にない製品をお土産として日本で買っていくのだと思っていた。しかし実際には、関税や増値税などで中国国内では日本製品の価格が1.5~2倍になり、単に日本で購入するほうが安いので、大量に購入し、税金のかからない状態で個人で中国に持ち込むのである。

 そして「日本の風邪薬は良く効く!」「水筒も全然壊れないし保温効果がすごい!」というように、品質が良く、人気のある日本製品は中国国内でも飛ぶように売れるのである。

 私の中国人の友人も日本での留学時代に「代购(ダイゴウ)」と呼ばれる日本から中国へ商品を送って売りさばく個人輸入で月に50~100万円の利益を上げていたと言っていた。

 通常の貿易では商品は基本的に「貨物」扱いとなり、化粧品を例に挙げると、関税10%、消費税30%、増値税17%となり、単純に合計しただけでも57%の税金を納める必要がある。それに比べて個人で使用するものは「物品」として扱われ、消費税や増値税がかからず、総じて課税額が低くなる。

 また、販売目的の「物品」だとしても、膨大な郵便物に対して、検査のための人手やシステムも確立されていないため、発見されるリスクも低く、多くの人が検査の網をくぐり抜けて「代购」によって稼ぎだしているのである。

 しかし現在では、貿易取引国に税金のかからない状態で商品を保管できる“保税区”を活用した越境ECなどの普及で、「代购」もだんだん難しくなっているようだ。

子供に車や家をプレゼントするのは当たり前

 日本では考えられないが、親が子供に卒業祝いや就職祝いなどで車やマンションの部屋を買い与えるのは普通である。

 大学を卒業したばかりで月給8万円程度の女の子が高級車に乗っていたり、マンションの部屋を持つなど、なぜかと不思議に思っていたが、親が当然のように買い与えるのが慣例のようだ。親もなぜそんなにお金を持っているが不思議だが、コツコツ貯めたり、副業が当たり前の中国では、副業で稼いだお金で子供にプレゼントするという。学歴社会の中国では、是が非でも子供を大学に行かせなければいけないし、部屋や車を買ってあげなければいけない。親はかなり大変だが、メンツを気にする中国人としては、かなり重要事項のようだ。

お気に入りのヘルシーで安い回転火鍋屋さん

 ここで、私のお気に入りの火鍋屋さんを紹介したい。海南大学の北門にある火鍋屋さんで、通常の火鍋屋さんとは異なり、カウンターは回転寿司屋さんのようになっており、火鍋の食材が串に刺してある状態で回っている。席に1台1台ホットプレートが設置してあり、そこに一人用の鍋を置いて、目の前を通っていく食材から好きなものを選び、自分の鍋に入れていく。会計は、スープと食べた串の本数で計算する。

 栄養たっぷりで健康的、その上、お腹いっぱい食べても24元程度(400円ぐらい)なので、お店はいつも満席である。もちろんここでの支払いも電子マネーで行う。

歴史好きな中国人

 食事やお酒の席では、必ずと言っていいほど中国の歴史の話になる。日本では特に歴史好きな人以外はお酒を飲みながら歴史について熱く語ることはそんなにないと思うが、中国では皆が中国の歴史に高い関心と誇りを持っており、気づけば、隣の席でもまた歴史について熱く語っている。中国は、ここ50~100年は低迷した時期にいるが、過去を遡ると、中国には非常に優れた国のリーダーが数多くおり、皆歴史から学んでビジネスなどに生かしているのである。

 中国人に「中国の経済やITの発達はすごいですね」と言っても、「それは表面的、短期的なもので、中国の歴史には深い思想や素晴らしい知識が詰まっており、最近良くなってきたとかそんなものではない」と歴史について高い誇りを持っている。

 そんな中国人でも現在の時代の変化に対して「私も3年前に何をやっていたかと言われれば、今と全然違うことをしていたからな、これからもどうなるかわからない」と中国人自身も時代の変化のスピードに驚いているようだ。

海南島で意外と仕事は見つけやすい

 日本人が極端に少ない海南島では、大卒であって、中国語で電話やネット検索する能力さえあれば、仕事は見つけやすい。

 日本語の先生、日本語の翻訳、貿易会社、旅行会社など、日本語ネイティブを必要としているところも多く、200万人いる海口市で20人もいない日本人の存在は貴重である。

 私の実習先の企業では、ほとんどの中国人社員が大学院を卒業しており、東京大学の博士までいて、留学経験者も多く、2、3カ国語を当たり前のように話せる人も多い。しかし、語学ができるという前提ではあるが、このような中でも海南島では日本人というアイデンティティーを十分に活かすことができる。

 海南島の給料は決して高くないが、生活コストを考えると、1人で暮らす分には十分である。なによりも自由に使える時間が多く、ストレスも少ないので、趣味を楽しんだり、別の仕事をする時間もあるので、日本にはないライフスタイルを送ることもできる。

 例えば、海南大学の日本語学科の日本人先生は、大学から無料で提供される2LDK(80平方メートル)の海と夜景が見えるマンションに住んでおり、午後から授業がない日もあって、温泉やエステ、ゴルフやサーフィンを満喫し、さらには、夏休みと冬休みに2カ月ずつ休暇があるので、ゆったりとバカンスを楽しんでいる。

走一步看一步

 中国語に「走一步看一步(ゾウイーブカンイーブ)」という言葉があり、とりあえずやってみて、問題が起こった時は、その時にまた解決方法を考えよう。という意味で使われ、また、「再说吧(ザイシュオーバ)」、事前に色々細かく聞こうとすると、「それはまたその時に話そう」と、これも彼らはよく使う。

 中国人は兎に角まずやってみる。先のことなどわからない、まずやってみて、それから状況を見てみよう。という積極的な思考で彼らはビジネスや色んなことに取り組んでいる。

踏踏实实(一歩一歩着実に)

 私は今まで活躍できる期間が短いスポーツ選手であったこともあり、知らず知らずのうちに、いろんな行動に対して焦って行動をしていた。また、余計な先のこともあれこれ考え、意味もなく不安になっていたりした。

 中国の言葉に「踏踏实实(ターターシーシー)」という言葉があり、一歩一歩着実にやる、といった意味がある。

 この言葉は私を非常に勇気づけてくれる言葉で、今までを振り返ってみると、焦って行動するとろくな事がなかった。大きなレースが近づいた時や悪い成績が続いた時に、焦って練習したり、慣れないことをして、肺炎を起こしたり、練習中に転倒して骨折したり、現状から逃れようと焦れば焦るほど悪い方向にいっていた。

 人間にはバイオリズムもあり、自分ではコントロールのしようがない外的要因も起こる。31歳になり多少の落ち着きも出てきたから言えることなのかもしれないが、悪い時期はあせらずに、じっと耐えて、流れが良くなるまで坦々とやるべきことをやって過ごせばよかったと今になって思う。

 すぐに結果を求めず、焦らず一歩一歩やっていくことの大事さを今になってやっとわかった。

 こういう事を言うと誤解されてしまうかもしれないが、個人的には長い人生7割ぐらいで頑張っていく方が長くやれる気がする。これは手を抜くとか、そういう意味ではなく、目の前のことは一生懸命やるが、気持ちの持ちようとして、7割ぐらいでいたほうが、心の余裕が保て、長くやれると思う。いつも100%でいると、いつかそのしわ寄せが来たり、失敗した時の精神的ダメージも大きい。

 そういう意味で、心に余裕を持ちながら、焦らず一歩一歩着実に、「踏踏实实(ターターシーシー)」という言葉が私にはすごく響いている。

元競輪選手の私ができること

 いま中国では国民の生活の質も上がり、教育や健康、美容に対する需要も高まっている。中国のビジネスマンや政府関係者の方達と関わっていく中で、競輪選手の時には知り得なかったたくさんの情報や知識を学び、多くの経験をしている。

 競輪の世界は、とても狭く、特殊な世界である。レースの成績が自身の存在価値のすべてと言って過言でない世界であり、選手を引退した後に職がなく、どうしていいかわからない後輩達に、こういう世界もあることを知ってもらうためにも、中国の現況や、その根底にある思考や思想について深く理解し、伝えていくことで彼らの視野や選択肢が広がればと思う。

(本稿は『MRIC』メールマガジン2018年3月20日号よりの転載です)

医療ガバナンス学会
広く一般市民を対象として、医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から解決し、市民の医療生活の向上に寄与するとともに、啓発活動を行っていくことを目的として設立された「特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所」が主催する研究会が「医療ガバナンス学会」である。元東京大学医科学研究所特任教授の上昌広氏が理事長を務め、医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」も発行する。「MRICの部屋」では、このメルマガで配信された記事も転載する。

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