10万円の水彩画が1500万円に! 現代アート投資のプロが薦める“青田買い”リストを公開

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 アベノミクスの恩恵か、年末に発表された大手企業の冬の賞与は平均88万1000円と、リーマンショック前の水準まで回復した。が、金融乱高下のご時世、潤った分を投資にあてがうのも躊躇(ためら)われる。そこで、鑑賞しながら利益も望める「現代アート投資」の出番である。

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 一口にアートといっても千差万別。財布が少々膨らんだところで、横山大観やルノワールに手が届くはずもなく、さりとて壺や茶器などの古美術品はしばしば真贋定まらず、付け焼刃の知識では“生兵法は大ケガのもと”になりかねない。今回は、手頃な値段で来歴も明朗である絵画の「投資術」をご紹介する。

 資産デザイン研究所の内藤忍代表が言う。

「投資には必ずリターンの“源泉”があります。投資信託や株などの金融商品は、企業の生産活動による経済成長が前提で、不動産投資には家賃というインカムが伴う。対して金やワイン、クラシックカーなどとともに『実物資産』に含まれる現代アートは、その値段や価値が定まっておらず、売り手と買い手との需要と供給で決まるのです」

 金利や配当がない反面、5~10%どころではなく、ある時オークションで突然値段がひとケタ上がることも珍しくない。

「国内では草間彌生さんに続き、ここ十数年来、村上隆さんや奈良美智(よしとも)さんといったスーパーアーティストが出てきました。『いい作品を届けたい』というギャラリーの熱意もあって世界的にメジャーとなり、結果、現代アート市場全体に投資家の注目が集まるようになったのです」(同)

 その特徴としては、

「純粋な投資に止まらず、作品として楽しめる点が大きい。気に入った絵を買って眺めるだけでも満足できるし、値上げは“おまけ”だと思えば、株価のように下がって腹が立つこともない。だから『この作品は気に入らないけど値上がりするから』という買い方はよろしくない。好きでもない絵を飾りながら『何で値が下がるのか』と、二重に不満が募ることになりかねません」(同)

■プライマリー市場とセカンダリー市場

 購入にあたっては、プライマリー(一次)市場とセカンダリー(二次)市場とに大別され、

「前者はいわばIPO(新規公開株)みたいなもので、作品が世に出る最初の市場がプライマリー。作家が所属しているギャラリーや個展などがそれに該当し、そこに直接出向いて買う方法です。後者のセカンダリーは、プライマリーの購入者から転売されたり、買い戻されたりした作品が集まる市場。オークションが中心で、そこに参加し、手に入れる方法。初心者はまずプライマリー、つまり目利きのできるギャラリーで自分の好きな作家の作品を買うのがよいでしょう。まだ数十万円で買える売出し中の作家だと、ギャラリーや個展で本人に会えることもある。メジャーになる前に“青田買い”しておいて将来ブレイクすれば、初期作品の値段が10倍や100倍に跳ね上がることもあり得ます」(同)

 会社員ながらコレクターとして知られ、『現代アートを買おう!』(集英社新書)の著もある宮津大輔氏は、

「最初は22年前、30歳の時にボーナス2回分を注ぎ込んで草間さんのドローイング(鉛筆画などの線画)を買いました。以来、数千万円かけてコレクションは約400点。資産価値でいえば億単位になりますかね」

 そう振り返りながら、

「好きな作品を買って楽しめれば、それが最高の投資だと思います。価値が下がったとしても宝物であり続けるわけですから、倒産したら紙くずになる株とは全然違います。あまり『投資だ投資だ』と根を詰めて考えず、『結果的に“恩返し”をしてくれたら』くらいに捉えればよいのでは。例えば子供が生まれた時に10万で買った作品を、20年後に大学入学でお金が要るから売りに出し、200万を手にしたとする。20年間アートに楽しませてもらっただけでも有難いのに、利益が出れば願ってもない話です」

 その“最前線”たるギャラリーに尋ねると、

「以前はもっぱらファッション業界関係の人が現代アートを好んでいましたが、村上さんや奈良さんの活躍で、購買層は広がってきていると思います」

 とは、2人の作品を多く扱ってきたギャラリーオーナーの小山登美夫氏だ。

ギャラリーオーナーの小山登美夫氏

「15~16年前、私がお客さんに売った奈良さんのペインティング(油絵や水彩画)に先日、サザビーズのオークションで1億3000万円の値が付きました。ドローイングも、10万円で売った30センチほどの水彩画が1500万円になっていた。同じく十数年前に25万円だった村上さんのペインティングも、いま1000万円。お二人ほど高名でなくとも、私のところで扱っている作家のペインティングが15年で10倍になったケースは、いくつもあります。市場の動きを見て瞬時に売り買いができる株や為替と違って、アートは投資期間が長く、流通性でいえばむしろ不動産に近い。その上、取引の選択肢としてオークションというシステムがあるのだから独特です」(同)

 初期の値段設定については、

「作家から直接作品を仕入れて販売している私のギャラリーもプライマリーですが、値付けは作品の大きさによります。同じ人の新作が10点あって、みな同じサイズだった場合、10点はすべて同じ値段で売ることになる。それらは初めて世に出るので、こちらで勝手に価値を判断するわけにはいかないのです。もちろん、エディション(版画など複製が存在する作品)よりも一点ものの絵の方が高くなるし、同じ一点ものでも、ドローイングよりペインティングの方が高くなる傾向があります。また、同じペインティングであればサイズが大きい方が基本的に値段は高くなります」(同)

 プライマリーでは同じ値で売られていた絵も、数年を経てオークションなどのセカンダリー市場に出てきた時には“差”が生じているという。

■小山氏お薦めのアーティスト

 そんな中で、小山氏のギャラリーで取り扱うお薦めのアーティストを挙げてもらったところ、

「いずれも『儲かるから投資しましょう』ではなく『応援するつもりで投資しませんか』という作家です。長井朋子さんは子供の頃の記憶のような懐かしさと残酷さが共存する作風で、アジアのお客さんに人気です。佐藤翠さんはクローゼットが絵画になっていて、曲線が魅力。大野智史さんはダイナミックな空間で同時代性を探求し、ヨーロッパで多くの個展を開いている桑久保徹さんはロマンチックな画面と的確な技術力が持ち味。増井淑乃(よしの)さんは細かいラインの集積が奥深い色彩の森をつくっていくのが特徴です」

長井朋子『くまのこハウス』26万円(税別)

佐藤翠『Shoe shelves IV』17万円(税別)

大野智史『ソーダ』45万円(税別)

桑久保徹『Citizen with the white box』50万円(税別)

増井淑乃『渡る馬』60万円(税別)

「特集 金融乱高下の時代に『現代アート』投資術」より

週刊新潮 2016年4月21日号掲載

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