スパイ容疑「元エリート陸将」は父が「陸将」弟が「海将」

社会 週刊新潮 2015年12月17日号掲載

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 ロシアの「GRU(軍参謀本部情報総局)」といえば、古くはゾルゲ事件にも関わった諜報機関である。だが、防衛省の誰もが驚いたのは、GRUのターゲットにされた元陸将が、伝説のエリート自衛官だったからだ。そして、有名な「軍人一家」の出身でもあった。

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個性が強すぎて……

 陸上自衛隊の泉一成元陸将(64)=2009年退官=が、書類送検されたのは12月4日のこと。2年前、ロシア大使館の元駐在武官、セルゲイ・コワリョフに「教範」と呼ばれる冊子を渡していたことが自衛隊法違反容疑に問われたのだ。コワリョフの本当の身分はGRUの大佐だったとされている。

 泉氏は、元部下5人を通じて教範を手に入れ、請われるままに渡していたというが、それはどんなものなのか。

「正式には『普通科運用教範』と呼ばれており、自衛隊内部では教育訓練などに使用するものです。部隊の運用の原則を説いたもので、部隊を集中させると戦力が大きくなるといったことが書いてある。秘密指定されたものではなく、それより下の“注意”や“部内限り”にも当たりません。自衛隊内の売店でも買うことが出来ます」(陸上幕僚監部広報担当)

■制服は特注

 それでも購入する際は上司の決裁が必要になるというから、やはりスパイに渡して良いものではない。泉氏もそのことは承知しており、また金銭の授受はなかったというが、防大名誉教授の佐瀬昌盛氏によると、

「最初はそれほど重要でない書類を要求し、次第にエスカレートしてゆくのが諜報の基本。“これなら大丈夫”と思ったのかもしれませんが、陸将にまでなった人にしては用心が足りなかったですね」

 その泉氏、自衛隊ではスター的な存在だった。

「泉さんは防大18期卒で成績はトップ。陸幕時代は自衛隊のイラク派遣を主導した中心人物で、東部方面総監まで務めた人です。毛並みもバツグンで、お父さんは、東北大医学部、軍医学校を経て旧陸軍の軍医でした。戦後は自衛隊に入り陸将にまでなっている。また、一成さんには3人の弟さんがいるのですが、次弟は海上自衛隊の呉地方総監を務めた元海将。だから、自衛隊で泉兄弟と言えば知らない人はいなかった。長弟、三弟も国立の名門大学を出たエリート一家なんですよ」(防衛省関係者)

 武人らしからぬ素養もあったようで、泉氏の母親によると、防大受験の際には「一般大学も併願するように」と言われ、東京芸大も受けている。読書家で知られ、数年前には山梨に一軒家の書庫を建てて読書三昧が趣味だった。

 だが、その一方、

「東部方面総監時代はジープの前半分を切ったボンネットが部屋に置いてあって、その前で指揮棒を振って部下に指示を飛ばしていました。また、制服は特注で裏地が真っ赤。“撃たれても血が目立たないから”というのが理由でしたが、そんな泉さんを“軍神”と呼んでいる人もいました」(同)

 個性の強さが敬遠されたのか、陸幕長人事では“格下”と見られていた同期にポストをさらわれてしまう。

 エリートだけど変わり者。ロシアのスパイは、そんな泉氏の“隙”に付け込んだのかもしれない。

「ワイド特集 師走の独走 迷走 大暴走」より