[仏テロ]「テロリスト」が自爆テロを怖がらない魔法の洗脳技術

国際 週刊新潮 2015年12月3日号掲載

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♪天国よいとこ 一度はおいで 酒はうまいし ねえちゃんはきれいだ〜。1967年のヒット曲『帰って来たヨッパライ』の歌詞のような死後が、彼らを待っているのか。11月13日にパりを襲ったテロリストたちは、ほぼ全員が自爆ベルトを身に付けていた。若者たちに死をも恐れぬ心を植えつけた、魔法のような洗脳技術とは。

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「ISなどの過激派集団は自爆テロを指示する際、“天国には72人の処女がいて彼女たちを自由にでき、酒や果物を好きなだけ楽しめる”と口説きます。当然ながら、教育水準の高いイスラム教徒は真に受けません」

 と言うのは、在仏ジャーナリストだ。

「自爆テロを行うテロリストは、教育水準の低い貧困層に多いのが特徴です。パリの事件の実行犯も20代の若者が中心でしたが、彼らに共通しているのは移民の2世や3世で、貧しい地区に生まれ育った点。何人かは強盗で服役していた過去もありました」

 フランスやベルギーは、戦後すぐに労働力の確保のため、北アフリカ諸国から移民を受け入れてきた。ところがその多くは、語学教育や職業訓練を受けられず、貧しい生活を強いられてきたという。苦労を重ねた祖父母や両親の下で育った若者たちは、社会に強い不満や歪んだ恨みを抱くようになり、そこにつけ込んだのがISだったのである。

「“自爆して異教徒を殺す行為は殉教だ”とか“死んでも天国に行ける”と繰り返し吹き込まれると、将来に絶望している若者ほど死ぬことに抵抗を感じなくなるのです」(同)

■若い世代には魅力的

 彼らにとって、仲間と“聖戦に参加している”という実感は、生きる意味や居場所の発見だったに違いない。まるで魔法のようだが、実際は心の弱みにつけ込んで信者獲得を狙うカルト宗教と何ら変わりはない。

 さて、多くのテロリストが自爆テロという手段を選ぶのは何故か。現代イスラム研究センターの宮田律理事長は次のように分析する。

「銃器の扱いなど特別な訓練を必要としないため、テロを指示する側には時間と資金を節約できるメリットがあります。加えて、対外的に大きな宣伝効果を得られると考えているのでしょう。“自分たちは神の道に殉じる集団である”とアピールすることで、さらなる賛同者を募ることができると目論んでいるのです」

 では、数ある過激派組織の中でISが選ばれる理由は何か。イスラム社会に詳しい、放送大学の高橋和夫教授が指摘する。

「単純にISがカッコ良く見えるのだと思います。宣伝工作一つを取っても、彼らは単に音声やビデオで犯行声明を流すのではなく、音楽やイメージシーンを盛り込んだ動画を複数の言語の字幕と共にネットで配信しています。動画投稿サイトやSNSも駆使しており、そうしたツールの活用も若い世代には魅力的に映るのでしょう」

 こうして、多くの命が使い捨てにされている。

「特集 うっすら見えてきた『地下組織』の衝撃 『イスラム国』大規模テロの不穏な幕間」より