USA「女子サッカー」はなぜあんなに強いのか――林壮一(ノンフィクションライター)

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女子サッカー育成プログラム

 サッカー不毛の地であるアメリカにおいて、女子サッカーが随一の強さを誇るようになった理由とは何なのか?

「70年代、アメリカの大学では女子にもスポーツをやらせようという空気がありました。“Title IX”の影響です」

 と説明するのは、03年よりダラス・テキサンズの代表を務めるポール・スチュワートである。同チームには男子部と女子部が設けられ、女子は5つのカテゴリーに分かれている。スチュワートは、1500名以上の選手を育成してきた。

 彼が口にした「Title IX」とは72年にアメリカ政府が認定した、女性の人権を守り、地位を向上させようという法案である。同法が施行されるまで、高校生の女子がスポーツをするのは27人に一人だった。スポーツ推薦で大学に進学する者はおらず、女子アスリートに与えられる予算は、どの大学も全体の2パーセントに過ぎなかった。

「時代の流れとともに、女子アスリートが増えていきましたが、怪我につながるのでアメリカン・フットボールはできないでしょう。サッカーは選択肢の一つだったのです。女性アスリートを支援しようという熱気のなかで、大学生にサッカーが広まっていきました」

 スチュワートが活動するテキサス州やカリフォルニア州は、南側がメキシコとの国境である。メキシコ人のサッカー熱を感じるところもあったに違いない。

 スチュワートは続ける。

「男女共に、ボールとスペースさえあればどこでも気楽にできるサッカーの喜びを、幼い子供たちが感じるようになっていきました。アメリカン・フットボールやベースボール、ラクロス、アイスホッケーは様々な道具が必要になりますから6歳以下の子には難しい。バスケットボールも10フィートのフープまでボールが届かないでしょう。でも、サッカーはシンプルに楽しめるから、誰にでも親しみやすいんですね」

 09年、高校生たちを対象に、女子サッカー育成プログラムとしてECNL(エリート・クラブズ・ナショナル・リーグ)が誕生する。U15からU17までを対象に、全米で40のチームが地域ごとに9試合のリーグ戦を行いながら、それぞれの年代16名ほどの精鋭を鍛えていくものだ。

 翌年、U18が加わり、登録チームは52に。3年目はU14も交えて66チームが参加と、徐々に大きな組織となっていく。無論、試合数も数倍になる。ダラス・テキサンズも、ECNLに加盟し、14歳から選手を集めて指導している。

 ECNLに登録されたエリートたちは、高校でのクラブ活動はできない。8月より翌年の7月まで、サッカー中心の生活を送るのだ。今シーズンは79チームが年代ごとに7グループに分かれてリーグ戦を戦い、プレーオフ、チャンピオンシップというスケジュールを組んでいる。

 名前の通り、選抜されたエリートたちが、週に5日、6日とサッカー漬けで暮らすため、必然的に技術は向上する。しかしながら、この年代でサッカーのみに集中すべきなのか、他のスポーツと併用すべきなのかは、意見の分かれるところだ。

 ただ、サッカーのコーチを生業(なりわい)としている人間が沢山いるため、情報交換が活発に行われ、大学のスカウティングも得られやすい。「ECNLのメンバー」となれば、大学のコーチもそれなりの実力者だという目を向けて来る。

「アメリカサッカー協会は、13歳以上の男子選手の育て方をシステム化していますが、女子選手については各チームの判断に委ねられます。わがチームは14歳でテストに合格した子を鍛えます。週に4度の練習、春、秋にリーグ戦、夏、冬はトーナメント戦があります。オフは7月の僅かな間ですから、他の競技と掛け持ちするのは難しくなりますね。

 一人でも多くの選手を上のカテゴリーに送ることと、サッカーを通じて若い世代が人生を充実させることを、祈って接しています」

 アメリカの場合、あらゆるスポーツにシーズンがある。秋にシーズンを迎えるのがアメリカン・フットボール、サッカー、テニス、ゴルフ、バレーボール。冬がバスケットボール、スキー、ライフル、レスリング。春はベースボール、ソフトボール、水泳、陸上などが一般的で、中、高、大のクラブ活動なら、季節ごとに複数のクラブを掛け持ちすることが可能である。

 現アメリカ女子代表キャプテンのクリスティー・ランポーンは、高校時代にサッカー、バスケットボール、陸上、フィールドホッケーと4種目で活躍し、それぞれ州の選抜選手になった。NBAのオールスター選手だったレイ・アレン、スティーブ・ナッシュは共にサッカー経験者で、バスケットボールの一流選手となった後に、それぞれフィールドで養われた戦術眼がコートで活きたと話す。彼らは、複数のスポーツを経験することが選手にとっていかに重要かを説く。

 が、今後はダラス・テキサンズのように、一つの競技にとことん集中させて育てる、言ってみれば日本式のような形態が増えていくのかもしれない。といっても、ECNLのチームも、直接プロのクラブに選手を送り込むわけではなく、選手たちが目指すのは強豪大学だ。

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