上場「ゆうちょ銀行」の命運を握る「ブタ積み預金」とは

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 イソップ童話の中には、よく知られた『金の卵を産む鶏』がある。だが、日銀に棲む“カネを産むブタ”を知る人は金融界でもそれほど多くない。親会社の日本郵政と共に11月4日に上場予定の「ゆうちょ銀行」は、その“ブタ”の動きに目を凝らしているのだ。

「検討もしていないし、近い将来に考えが変わることもない」

 10月7日に行われた金融政策決定会合の後、日銀の黒田東彦総裁は、記者団にこう答えた。全国紙の日銀担当記者の解説では、

「国内すべての金融機関は、日本銀行に当座預金口座を開設して、万が一の時に備えて法定準備金を積み立てています。準備金の超過分には、年0・1%の金利が付く。黒田総裁の発言は、この金利を見直すかという質問への返答でした」

 この超過分を、ブタ積みと呼ぶ。他で運用するより低利回りのため、こう揶揄されている。金融機関の個別準備金は原則非公開だが、ゆうちょ銀行のそれは最低2兆円に上る。

「ゆうちょ銀の総貯金額は約177兆円で、当期純利益が約3694億円。一方、預金量約153兆円の三菱東京UFJのそれは約1兆337億円で、実に2・8倍もの開きがあります」(同)

 この差は、ゆうちょ銀行が住宅ローンや企業向け融資を制限されており、運用の大部分を国債購入に頼っているからだ。メガバンク幹部が憫笑しながら、

「ゆうちょ銀行は、日銀の当座預金への“ブタ積み”で運用しているのです。6月末時点で、当座預金残高は約35兆円。準備金の約2兆円を引いて計算すると年間利息は約330億円になり、当期純利益の約10分の1に当たります」

 ゆうちょ銀行にはなかなか旨味があるが、

「実は、すでに欧州中央銀行は“ブタ積み”のマイナス金利を実施している。黒田発言とは逆に、日銀内部では引き下げの検討を始めています。これが実現すれば、ゆうちょ銀は大打撃を被るでしょう」(同)

 総理の解散権と同じく、日銀総裁も金融政策の“嘘”は方便として許されている。果たして、黒田総裁の心中はいかに。

週刊新潮 2015年10月22日号掲載

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