夏草やポンコツ維新が夢のあと 悲鳴も上がる「橋下徹」vs.「松野頼久」の花いちもんめ

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 結党から僅か1年。衆参51人の議員を擁して永田町の第三極を目指した「維新の党」も、内紛勃発で今やポンコツ同然。対立が決定的な橋下徹前最高顧問(46)と松野頼久代表(54)は分裂を控えて、中間派議員の取り込みを巡り、「花いちもんめ」に明け暮れている。

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遂に袂を分かった2人

 永田町の「花いちもんめ」は、子どものそれとは決定的な違いがある。誘い文句は「カネ」と「悪口」と「恫喝」なのだ。

 もはや分裂が不可避となった維新の党は、目下、大阪系と非大阪系とに分かれ、そのどちらにも属さない「中間派」の取り込みに躍起。連日のように、手練手管を駆使した仁義なき多数派工作を展開中である。

 維新の党には衆院40人、参院11人の合計51人の国会議員が在籍しており、橋下氏に従う大阪系は“橋下氏の番頭”と言われる馬場伸幸国対委員長を始めとする衆院議員が12人。それに片山虎之助総務会長ら6人の参院議員を加えた計18人という。

 一方の非大阪系は、松野氏を筆頭に柿沢未途氏、江田憲司前代表ら衆院議員が18人。参院議員は小野次郎氏、川田龍平氏など5人で、総勢23人と見られている。

 大阪系と非大阪系との2つのグループが、「♪あの子が欲しい」と“草刈り場”にしているのが、「中間派」と呼ばれる10人の衆院議員。ある者はひっきりなしに鳴り続ける携帯電話の呼び出し音に頭を悩ませ、ある者は高級レストランの個室に呼び出されて、いかついメンツに囲まれ、料理に一度も手を付けられない緊張感あふれる時を過ごしているのである。

 彼らの鬼気迫る迫力に魂を抜かれたのか、中間派議員の口は一様に重い。やっと口を開いた中間派の1人、吉田豊史衆議院議員(45)は複雑な心境を吐露する。

「私は『七人のサムライ会』という維新の党内にある当選1回生の会のメンバーです。内訳は中間派が4人、大阪系が3人、非大阪系が1人ですが、9月5日に両院議員懇談会が開かれた時には会の総意として、松野代表に“党がまとまるために動いて頂きたい”と伝えたばかり。党が壊れたら、執行部が組織を維持できなかったということになる」

 と、期せずして自身を見舞った状況に戸惑った様子。

「冷静に分析したら、橋下さんについて行けば安心かと言えば、言うことがコロコロ変わったり不確定なことが多くて疑問が残る。かと言って松野さんについて行っても、民主党には見下されている気がするし、良いように刈り取られてしまうだけではないか」

 大阪系か、非大阪系か――。進むも地獄、退くも地獄という状況に吉田氏は悲鳴にも似た懸念を口にした。が、これは、今の中間派議員の全てに共通する思いのはずである。野党担当記者が解説する。

「大阪系が勧誘の時に相手に与えるアメは橋下市長の政界復帰で、殺し文句は“いずれ橋下さんは政界に戻って来るぞ”。将来的に橋下市長が国政選挙に打って出た時に永田町に与えるインパクトや、再び大きなムーブメントが起こった時に選挙応援が及ぼす影響力を滔々と語り聞かせています。その一方で、相手によっては“松野の下では比例復活はないぞ”、“向こうに行くなら対立候補を立てざるを得ない”などと、半ば脅しに近い言い方までしている」

 橋下氏に“来年夏の参議院議員選挙に出馬するのではないか”との観測があるのは事実だが、

「実現するかどうかは全くの未知数。仮に出たとしても、一度は“政界復帰は絶対にない”と明言していますから、かつてのような熱狂的な支持を集められるかどうかは分かりませんよ」

■画餅と空手形

 人数で遅れを取る大阪系は巻き返しに必死だ。政治部デスクの解説。

「9月3日の夜には11人が赤坂の中華料理店に集まり、情勢の分析と今後の多数派工作のあり方について意見を交わしました。説得する材料や、いかに非大阪系に接触させないようにするかなど、具体的な意見が交換されたと聞いています」

 対する非大阪系も対策に余念がないのは同じである。

「幹事長代行の松木謙公さんが司令塔となって、次々と中間派議員との面会を取り付けている。松野代表も積極的に彼らのパーティに足を運んで直談判している姿が目撃されています。執行部の1人は“すでに全員と話ができた”と自信を深めていました」

 さらに続けて、

「彼が言うには“切り札は民主党との新党構想。民主党との交渉はかなり進んでいるということになっている”とか。加えて“新党は大阪人にあらずんば人にあらずだ”とか“あっちは大阪出身でないと役員になれない”などと、大阪系へのネガティブキャンペーンも忘れていません」

 ネックは前回総選挙で比例復活した議員の場合、公選法の規定によって、そのまま民主党に合流できないこと。つまり、民主党が一旦、解党した上で新党を設立しないと合流できないのだ。しかし、実のところ民主党が解党して、松野氏らと新党を立ち上げる可能性は極めて低い。

「かつて民主党に所属していた松野代表は、野田政権が解散に追い込まれつつあった2012年9月に離党した。野田さんは今もそれを根に持っていて、松野さんとの合流に難色を示している。民主党には衆参合わせて130人の議員が所属していますが、その多くが野田さんと似たような意識。解党に前向きなのは僅か5~6人しかいません」

 大阪系は「橋下さんは政界に復帰する」との画餅を掲げ、対する非大阪系は「必ず民主党は新党を設立する」との空手形を乱発する。その姿は、資産の運用に興味を持ち始めた素人投資家を相手に、根も葉もない投資話を持ちかける詐欺師のようでもある。高級スーツに身を包み、議員バッジをつけた選良たちが、永田町を舞台に目の色を変えて獲物を物色しているのである。

 在阪記者によると、2つのグループがここまで中間派の取り込みに必死なのは、

「引き続き安倍政権の補完勢力を目指す大阪系にしても、今後も民主党との合流に意欲を燃やす非大阪系にしても、1人でも所属議員が多い方が存在感をアピールできます。加えて資金面の問題があります。橋下市長と松野代表による交渉はこれからですが、2人の念頭には、近く交付される政党助成金の存在があるのでしょう」

 政党助成法によると、政党が分裂する際、「分割」か「分派」かによって政党助成金の扱いは変わってくる。

■カネの話

「橋下新党が政党助成金を受け取るには、維新の党が解党された上で、松野、橋下両氏がそれぞれ新党を届け出る“分割”手続きを取る必要があります。しかし、松野代表ら執行部があくまで橋下市長らを離党扱いにするならば、“分派”となって全額が残留する松野代表らに支給されます」

 政党助成金は、毎年4回に分けて交付される。今年度の維新の党への助成額は26億6400万円で、単純に計算すると次の支給月の10月には6億6600万円が支給される。先の野党担当記者によると、

「非大阪系は、“勝手に党を出て行く人たちに助成金を渡す必要はない”との意見で一致しています」

 ところが、松野氏に近い議員に聞くと、

「うーん、そこは難しいところでね。夫婦の離婚の時も、一番揉めるのはカネの話でしょ。タダでさえ、松野さんは借金があるとか評判が悪いし、何せ育ちはボンボンで性格は八方美人。海千山千のタレント弁護士の橋下さんを前にしたら、あっさり“分かりました”って言っちゃいそうだよ」

 というわけで、松野氏が党の分割に応じた場合、大阪系は約2億3490万円を得ることになる。非大阪系の取り分は約3億15万円と、実に6割近くも減額になる。中間派の持ち分は約1億3050万円だから、1人当たり約1300万円。政治資金の面でも、中間派の取り込みは重要というわけである。

 さて、中間派の議員たちもいつまでも結論を先送りできるわけではない。野党担当デスクによると、近いうちに決断のタイミングは2つ訪れるという。

「1回目は、9月14日以降に松野氏が提出を示唆している内閣不信任案に賛成するかどうか。大阪系は“出す理屈がない”と反発を強めていますから、ここでの賛否がその後の身の振り方を左右しますね」

 松野氏は9月3日の会見で内閣不信任案の提出に触れた際、“(党議拘束は)当たり前”と明言。合わせて造反者の処分を示唆した。

「ただ、抜け道がないわけではありません。採決を欠席するか、退席して棄権するのです。大阪系が反対票を投じるでしょうが、そんな明白な反党行為と比べて棄権はまだマシです。実質的に、処分は下されない可能性が高いと思います」

 2回目は、10月1日に橋下氏が新党を発表した時だ。

「橋下氏は松野氏の会見と同じ3日に、未だ新党への対応を明らかにしていない議員を念頭に“いらない。そんな人は”と冷たく突き放しました。これは“早く決断してうちに来い”“後から来ても冷遇するぞ”とのメッセージが込められているとの見方が大勢です」

 政治評論家の浅川博忠氏もすっかり呆れ顔。

「分裂必至という誰もが追い込まれた状況下にあって、大阪系と非大阪系が争うのは、どっちの『維新』が本家なのかというメンツのためです。橋下さんは“大阪で生まれた党なんだから出て行くべきは松野たちだ”と言いたいし、松野さんにすれば“代表も幹事長も大阪系にはいないから、党の主軸は自分たちにある”と主張したい。そこで双方とも中間派に目を付けた。数で相手を上回れば本家争いに決着をつけて、その上で“離婚協議”を有利に進められると踏んだんですよ」

 コップの中の争いは、まだまだ続くのだ。

【特集】「夏草やポンコツ維新が夢のあと 悲鳴も上がる『橋下徹』vs.『松野頼久』の花いちもんめ」より

週刊新潮 2015年9月17日号掲載

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