反捕鯨「ザ・コーヴ」に“ノー”を突きつけた日本人女性監督

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 滝田洋二郎監督「おくりびと」がグランプリを獲得したことで知られる、モントリオール世界映画祭。39回目を迎えた今年、ドキュメンタリー部門に、ある日本映画がエントリーされた。

 タイトルは「ビハインド・“ザ・コーヴ”」。これでピンときた向きも多いだろう。和歌山県太地町で行われているイルカの追い込み漁を批判的に描き、2010年にアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したアメリカ映画「ザ・コーヴ」に、“ノー”を突きつけた作品なのである。

 自費を投じ、映画製作から宣伝までをたったひとりでこなしたのが、この作品が初監督となる八木景子さん(48)。

「子供の頃、給食で出る鯨の竜田揚げが大好物だった八木さんですが、『ザ・コーヴ』のアカデミー賞受賞に“日本の食文化や伝統が歪められている”と危機感を抱き、製作を決意したそうです」(文化部記者)

 太地町に4カ月住み込み、シー・シェパードが漁師など住民に圧力をかける様子などを撮影する一方、「ザ・コーヴ」の出演者をはじめ多くのインタビューを行い、110分の作品にまとめた。

 映画祭では9月4日と7日の2度上映。その両方を鑑賞した、カナダ在住のライター・関陽子さんは言う。

「技術的な部分ではよくできているとは言い難いのですが、八木監督の熱意がよく伝わってきました」

 中でも印象に残ったのは、

「マッコウクジラの質のいい油をロケットやミサイルの潤滑油に使っていたアメリカが、70年代に捕鯨問題を取り上げ、国際世論を日本バッシングに振り向けることで、ベトナム戦争に関する対米批判を逸らした、という説明です」

 シー・シェパードの悪行暴露だけでなく、歴史や文化など多角的な要素をふんだんに盛り込んでおり、

「とても深い内容の作品です。観客の反応も上々で、上映後の監督との質疑応答でも、この作品を否定するような質問はなく、監督は“拍子抜けしました”と言っていました」

 惜しくも受賞は逃したが、

「監督は“この作品は私が産んだ子供。これからは育てていかなきゃいけない”と話しています。今後沸き起こるだろう批判や反発への覚悟もあるようです」

 日本はもちろん、世界各地での上映が望まれる――。

週刊新潮 2015年9月17日号掲載

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