20連勝! 出雲のイナズマ「里見香奈」女流二冠はなぜ男に勝てない

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 今や女性が進出していない職業を探すのは難しい時代である。だが、将棋の世界は違う。もちろん、「女流」という女性棋士だけの世界は別にあるが、名人戦などに出られる「プロ棋士」になった女性はまだ一人もいない。そして、最も有望といわれる里見香奈・女流二冠(23)も、また、高すぎる壁にぶつかっている。

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 目下、女流棋士の世界にあって女流王位、女流名人の二冠を持つ里見を止められるライバルはいない。

「体調不良で休養を取っていた里見ですが、今年1月に復帰すると連勝を続け、2月には女流名人戦を連覇、5月の女流王位戦もストレートで奪取し、8月1日に行われた『マイナビ女子オープン』でも2連勝、前人未到の20連勝を達成したのです。終盤の鋭い差し手から“出雲のイナズマ”と呼ばれている彼女ですが、女流では、もはや敵なしと言っても差し支えありません」(将棋観戦記者)

 だが、そんな里見にも、ままならない世界がある。女流とは違う「プロ棋士」の道だ。

「プロ棋士に男女の区別はありません。しかし、プロになるためには、養成機関の『奨励会』に入る必要がある。そこでリーグ戦を勝ち抜き、四段になって初めてプロになれるのです。しかも四段に昇格できるのは半年に2人だけという非常に厳しい世界です」(同)

 里見が注目されたのは、4年前に奨励会の編入試験に一発合格し、女性では初の三段に昇格したからだ。それまでにも林葉直子や蛸島(たこじま)彰子といった女性棋士が奨励会に入ったが蛸島の初段どまり。それだけに里見は初の女性プロ棋士誕生かと期待されたのである。ところが、昨年3月に体調を崩すと、それ以来、リーグ戦には参加していない。

「これで里見さんのプロ昇格は非常に難しくなったと見ていい。奨励会では三段から四段になるのが最も大変で、26歳になると自動的に退会させられる。23歳の彼女にはもう時間がありません」(同)

 三段から四段に昇段するには、3年はかかるのが普通。里見には実質2年半しか残されていない。

 休養から戻った彼女が、もっぱら「女流戦」に出るようになったのは、それを意識しているからとも言われている。競技人口も男が圧倒的に多い(5対1)とはいえ、女性のプロ棋士はいまだにゼロ。将棋というゲームは女性に不利に出来ているのだろうか。

■「女流」は稼げる

 脳科学者の茂木健一郎氏が言う。

「一般的に言って女性は右脳と左脳をつなぐ“脳梁”という箇所が太く、左右バランスよく働かせて同時に2つの事が出来る能力に長けています。一方、男性は脳梁が細い代わりに左脳を発達させやすい。これは一つのことに集中して取り組むのが得意なことを意味しており、いわゆる“オタク脳”ってやつです。もちろん、脳は個人差が大きいので、あくまで統計的なもの。女性にも将棋に向いている脳の人はいるはずなんですけどね」

 それよりも、将棋界の現状が女性の「プロ棋士」誕生を阻んでいると言うのは、ある中堅棋士だ。

「女流棋士の世界では、里見さんクラスになると対局料やイベントで年間1000万~2000万円は稼げる。しかし、奨励会の会員は、どれだけ強くても記録係など1日5000円程度の収入で年収100万円がいいところです」

 奨励会に戻ってチャレンジする気も失せるというものである。

「ワイド特集 女たちは荒野をめざす」より

週刊新潮 2015年8月13・20日夏季特大号掲載

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