大統領の“妨害”に迫った「アルゼンチン検察官」怪死事件

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 1月18日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスのマンションで、ある男性の遺体が見つかった。部屋には内側より鍵が掛けられており、遺体の傍らには拳銃が置かれていたため、警察は当初“自殺”と処理――。

「しかし、死亡したのがアルベルト・ニスマン検事(51)だったことで、他殺説が浮上します。というのも、彼は翌日、議会で重大な証言をする予定だった。口封じに殺されたのでは、と疑われたのです」(現地記者)

 話は1994年にまで遡る。この年の7月、ブエノスアイレスのユダヤ人協会が爆破され、85人が死亡、300人以上が負傷するという凄惨なテロが起きた。

「市内は混乱状態で、空港も閉鎖されるほどでした」

 と言うのは、当時ブエノスアイレスに滞在していた京都女子大学の松下洋教授。

「アルゼンチンは南米一ユダヤ人の人口が多いことで知られ、民族間の融和も進んでいた。だからこそ、ショックな事件でしたね」

 捜査は難航するものの、当局はイスラエルと敵対関係にあるイラン政府がテロを首謀したと判断し、2006年にラフサンジャニ元大統領らイランの要人9名の逮捕命令を出している。

 ところが、容疑者を国際手配した段階で捜査はなぜかストップし、結局、逮捕には至らぬまま。その謎を追いかけていたのが、亡くなったニスマン氏だった。

「04年から捜査に携わっていた彼は、イランとアルゼンチンの政府間で密約が交わされ、事件がウヤムヤにされてしまったものと確信します。その証拠となる電話の録音テープも保持していると語っていた」(先の記者)

 ニスマン氏の主張によれば、アルゼンチン政府はテロ事件でイランを免責する見返りに、石油を安く輸入する権利を手にしたという。

「彼の自宅のゴミ箱からは、現政権が捜査妨害を働いたとしてフェルナンデス大統領への逮捕状を請求する文書も見つかった。1月19日は、この件の詳細を説明することになっていたのです」(同)

 あまりのタイミングに、大統領は関与を否定しつつも、「他殺の可能性は否定できないが、反政権派の陰謀では」と答えるだけで精一杯。この大ピンチ、名ドリブラーのメッシをもってしても切り抜けるのは難しそう。

週刊新潮 2015年2月19日梅見月増大号掲載

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