人類の脳と瓜二つの驚くべき頭脳/『世界一賢い鳥、カラスの科学』

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 英語で「バードブレイン(鳥の脳)」といえば「ばか・とんま」。もともと鳥の頭脳は小さく、その上、三次元空間内での体の平衡確保に全力を傾注するため、その他のことを考える余力など残されておらず、それで「ばか・とんま」視されてしまった。しかし、これは誤解と誤観察にもとづく全くの俗説である。

 早い話、街中どこにでもいるカラスを一度つぶさに観察したら、即座に了解されよう。彼らの頭脳の働きは並外れて高度で、むしろ「羽毛のある類人猿」いや「羽毛のある人類」そのものといった方がいいかもしれないと。過去の記憶、将来の予測、見えないものの洞察、言葉の理解、道具の使用、死の自覚、新アイデアの案出、遊びへの没入……など人間の記憶・認識・情動活動とほとんど異ならないくらいだ。

 爬虫類→哺乳類とたどる進化の果てに人類がいるとすれば、爬虫類→恐竜→鳥類とつづくもう一つの流れの果てにカラスが立つ図か。アメリカ人野生生物学者の手になる本書の特長は、カラスの聡明さを示す驚くべき行動を多数紹介するとともに、そうした行動を可能にするメカニズムを、最新の脳・神経生理学的知見に基づいて明らかにしてくれる点だ。要はカラスの脳も多層構造をなしており、しかも分厚い外層部は多くの領域(モジュール)に分れ、領域(単独あるいは共同)ごとに言語、空間認識などの機能がきちんと決まっているらしいことは、人類の脳と瓜二つで、それがカラスの賢さの一番の理由だという。

 しかし正直いって、脳スキャンなどを駆使して得られた大脳生理学的説明は、専門知識のない読者には理解するのがむずかしい。そこはそれ、むずかしい箇所は後回しにして、カラスのビックリ行動の数々を読むだけでも、大いに愉快になる。

 カラスが人間の言葉を理解し真似することは知られているが、なんと犬の飼い主の声を真似て何匹かの飼い犬を呼び集め、モンタナ大学の中庭で犬相手の「講義」を始めたというカラスも! 

 つかんだ板で上昇気流を捉え、角度の調整で上昇・降下の「サーフィン」を楽しむコロラドのワタリガラス。鉄棒で「大車輪」に興ずる日本のカラス。あるいは庭先で餌を与える際、「おまえたちはなぜ何もよこさないんだ?」とカラスに冗談をいったら、後で「ラブ」と刻印された紫色のキャンディーがトレーに置かれていたという話。死んだ仲間のところに「葬儀」のように集まってくるカラスたち。巣から落ちたヒナをどうしても巣に戻せぬと分かると、断固ヒナを殺してしまった親ガラス……。

 何にせよ読み手に大脳生理学の知識があれば、本書の面白さは倍加するはず。一度、一夜漬勉強に挑戦してみますか。

[評者]稲垣真澄(評論家)

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