漢方大手ツムラ、生薬トレーサビリティは「不十分だった」 揺らぐ信頼

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《自分の家族に飲ませることができる生薬を供給する》――漢方大手「ツムラ」の内部資料に、こんな衝撃的な文章が記されていた。

 これは、中国産の生薬原料に同社が使用を許可していない農薬が使われていたことを受け、社内の生薬本部が作成した「生薬GACPの現状と今後の農薬管理について」という資料に登場する文言だ。

 GACPとは、安全に生薬を確保するためのガイドラインを指す。栽培手順や使用農薬の徹底、万一の時には生産地まで遡れるトレーサビリティ体制を謳うツムラだが、実際は使用農薬が遵守されておらず、また“どこの誰が作ったか分からない”作物が混じっていないというお粗末なものだった。

 冒頭の一文は、現在のツムラの製品は社員の家族には飲ませることができない漢方薬だ、と読み取るほかない。ツムラはどう答えるか。

ツムラが販売している漢方薬

■あくまでもスローガン

「決して社員の家族に飲ませられないものを作っているわけではありません」

 と動揺を隠せないのは、コーポレート・コミュニケーション室の広報担当者だ。

「この一文は、生産者としての意識向上、動機づけとしてのスローガンなのです。2015年に農薬の不適切使用が発覚した際、どうやって農民に理解してもらえるかを、中国のスタッフと話した時に、この文章が一番わかりやすい表現ではないかとなったのです。中国は家族を大事にする習慣があるので、農民の皆さんも腑に落ちるだろうと。ですから農民の方へのメッセージであって、日本の社内に向けたものではありません」

 かように言い訳するものの、文章が載っているのは、役員会議用に作成された資料なのだが、

「自社製品を飲む社員からも何を言っていると声が上がるかもしれませんが、会議では誰からも意見は出ませんでした。産地向けのスローガンという意識があったからスルーとなったのです。先ほどこの言葉を改めて見直した時、“誇りを持って”という言葉が頭に足りないのではないかと話をしました。表現への配慮が足りなかったかも知れません。資料の作り方が悪かったと言われれば、その通り」

 あくまでもスローガンだと繰り返すのだが、ツムラ社員によれば、

「問題は患者や薬を処方する医師らの信頼を裏切っているということです。トレーサビリティが確立したと言われれば、普通はスーパーで売られている野菜のように農民までだと思います。だからこそ、他社に比べてツムラへの信頼が厚かったわけです」

■裏切られた思い

 実際の医療現場の声はどうか。漢方専門医の資格を持つ帝京大学医学部の新見正則准教授の話を聞こう。

「ツムラの営業担当から、“ロット番号が分かれば、どこの畑で作られたか100%分かる”と聞いています。100%と言うからには農民すべてという意味だと受け取っていました。でも、実際は、そんなこと不可能だろうと思っていたのです。なぜなら、相手は中国ですよ。何があってもおかしくない、私は話半分に聞いていたので、それほど驚きではありませんが」

 とはいえ多くの医師や患者は裏切られたと思うに違いない。

 再び、ツムラの広報担当者にご登場願おう。

「農家20人ぐらいの上にはそれを束ねる代表がいます。その代表まで辿れるようにしておけば、万一の時に末端まで遡及できると考え、それが整った時に“確立”を宣言しました。でもシステムを運用したら、不十分な点が出てきたので2018年度までに農家の方々を把握可能にしようと考えているのです。言い訳するつもりはないのですが、消費者目線から、生産者と言えば農民を指すのは仰るとおりです。今後は表現に注意し、最善を尽くして行きたいと考えております。ただ、万一、問題のある生薬が輸入されたとしても漢方製剤の安全性はしっかり担保されています。検査対象の農薬はWHO基準、日本の食品衛生法基準、業界団体の基準、欧米で禁止されているものを含めすべて測定できますので、それだけはご理解いただきたい」

 最後に企業コンプライアンスに詳しい、元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士が言う。

「医者や医療機関に対して“100%のトレーサビリティを確立”といった文言で営業していたとしたら問題です。その場合は、明らかに誇大、ないしは誤解を招く表現をしていたことになるわけですから、違法とは言えないまでも、コンプライアンス上、適切な営業活動とは思えません」

 失った信用を回復するには、症状に見合った薬を、まずは自分で飲んで見せるしかない。

特集「役員会に驚愕の内部資料 漢方大手『ツムラ』が売る『社員に飲ませられない生薬』」より

週刊新潮 2016年12月22日号掲載

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