尖閣諸島に漁船・公船が集結…習近平が焦る事情

国際 中国

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 お前の物はオレの物、オレの物もオレの物――「世界のジャイアン」中国が、さかんに尖閣諸島にちょっかいを出している。

「8月15日までで13日連続、尖閣諸島周辺で中国政府所属の公船が確認されるという異常事態が生じています。領海のすぐ外の接続水域では200~300隻の中国漁船が操業し、最大15隻もの公船が集結。5日から繰り返された領海侵入は延べ28回にも及びます。こんなことは過去に例がなく、なぜ今になって突然、と不可解です」(国際部記者)

 禁漁が明けた夏の時期に、尖閣諸島周辺に中国漁船が大量に現れるのは例年のことだという。だが、領海に侵入し、海上保安庁から退去警告を受けた漁船の数は今回、5日間で72隻に及ぶ。昨年1年間で70隻だから、この執拗さは尋常でない。

「海警局の巡視船や漁業監視船といった中国公船の領海侵入が確認された5日からは、日本政府も参事官から事務次官、大使、外相に到るまで、中国にあの手この手で厳重な抗議を30回以上、行なったのにどこ吹く風。公船が11回も領海侵入した7日など、朝から晩まで10回も抗議したが止む気配がない。いよいよ尖閣奪取に本腰か、と警戒感が高まっています」(同)

 海上保安庁によれば、中国は1000トン以上の大型公船を2012年9月段階では40隻しか保有していなかったが、昨年末にはその3倍、120隻にまで増強。ある米シンクタンクはこの猛スピードの増強により日中の海上警備力は逆転しかねないと分析しており、東シナ海での中国の脅威は確実に大きくなっているのだ。

 とある政治部記者は言う。

「尖閣諸島の接続水域に中国の公船が確認された3日は第3次安倍改造内閣が発足した日。新内閣がどこまで我慢できるか揺さぶろうとしているのでは、などとの憶測も流れています」

■高まる内圧こそ恐怖

 だが、政治解説者の篠原文也氏は言う。

「そうした要素もあるかもしれませんが、最も考えられるのは南シナ海問題の影響でしょう」

 7月12日、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は南シナ海での中国の領有権に関する主張を全面的に退けた。

毛沢東 日本軍と共謀した男』の著者で筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は言う。

「これがいかに中国に衝撃であったかは、判決を〈紙くず〉、〈政治的茶番〉と切り捨て、日本の陰謀とヒステリックに言い立てた反応からも明らかです」

 南シナ海での領有権が国際法上、認められないとなれば、中国の領海法が定める「台湾、尖閣諸島、澎湖諸島、東沙諸島、西沙諸島、南沙諸島」といった領土の根拠もまた揺らぐ。ジャイアンも必死になるはずだ。

「そこで7月24日からのASEAN外相会議では一部の国をチャイナ・マネーで抱き込み、国際法の遵守を説くアメリカにはそっちこそ国連海洋法条約に加盟せよと居直った。ハーグ判決前、“まず行動を起こせ! 後から言っても何にもならない”という趣旨の発言をしていた習近平は、これで南シナ海問題は逃げ切れた、次は尖閣だ、と乗り出してきたのでしょう」(同)

 だがなぜそこまで焦るのか。前出の篠原氏は言う。

「日中問題は常に両国の国内問題と不可分です。実は、南シナ海問題を政権の外交失策ではないかとする声は根強い。これを挽回し、9月に杭州で開催されるG20までに国内の不満を抑えこみたいのでしょう」

 遠藤氏も言う。

「一党支配体制の中国にとって人民の爆発こそ最大の恐怖。内圧を高めてはならないのです。よい例が11日に尖閣近辺で起きた中国漁船衝突事故。中国船員6人が日本の海上保安庁に救助されて“海警船は何をしていたのだ”と中国内のネットは大炎上。面目丸潰れの中国は慌てて日本に謝意を表明する羽目になりました」

「世界のジャイアン」も、自国民だけには音痴な歌を聞かせられないのだ。

週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号掲載

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