日本に追い詰められた韓国 米国に泣きつくも「中国と手を切れ」と一喝

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行方不明のエッチングガス

――日本の「輸出管理強化」は米中覇権争いの一環との見立てですね。

鈴置: ええ、いろいろの意味で。「北朝鮮への「横流し疑惑」で、韓国半導体産業の終わりの始まり」では、中国陣営に鞍替えしつつある韓国に半導体――世界のメモリー生産の半分を米国が持たせるとは考えにくい、と申し上げました。

 ただ、それは中期的な問題です。米国の韓国に対する「踏み絵」の迫り方が急になってきたのは、「5G」が理由と思います。

 韓国の産業通商資源部の課長2人が日本の経産省に押し掛け「輸出管理の強化とホワイトリストから外される理由」を問いただした7月12日のことです。韓国国会でこれまた見落とせないニュースが発生しました。

 親米保守で野党第1党の自由韓国党の議員が、予算決算特別委員会で、以下のように政府の見解をただしたのです。

・韓国関税庁の統計によると今年1月と5月、半導体製造用のエッチングガス(フッ化水素)がそれぞれ30キロと3万9620キロ、韓国から日本に輸出された。
・だが、日本の財務省の貿易統計では、韓国から輸入されたエッチングガスは120キロに過ぎない。99・7%がどこかに消えたのだ。調査と捜査が必要だ。

 エッチングガスは日本が対韓輸出の管理を強化した3品目の1つ。韓国がこの管理をきちんとしていたか、が日韓紛争の論点に浮上しています(「日本に『怪しい国』認定された韓国 文在寅は「受けて立つ」というが、保守派は猛反発」参照)。

 その最中に、3万9530キロもの大量のエッチングガスが行方不明になったことが公になったのです。

「不良品を日本に返品した」

――韓国から日本にエッチングガスを輸出、ですか?

鈴置: そうです。そもそもそれが怪しい。日本から韓国への輸出が普通で、その逆は少なくともここ10年間、皆無だったそうです。

 韓国政府は後刻、「日本から輸入したエッチングガスが不良品だったので、5月に3万9620キロを日本に返品した」と答弁しました。

 もちろんこの言い訳は言い訳になっていません。「返品」だろうが何だろうが、誰かがエッチングガスの仕向け先を誤魔化して韓国から輸出したのですから。

 ただ韓国でも日本でも、このニュースはほとんど報じられませんでした。私が見た限りですが野党議員の質問は、聯合ニュースが「与野、補正予算で攻防…『早急に処理して危機突破』VS『拙速編成で大幅削減』」という国会の質疑応答記事の中でちらりと報じただけ。

 政府答弁の部分はノーカット・ニュースという新興通信社が「政府『韓・日フッ化ガス統計の不一致…不良品を返品したということ』」で書いたぐらいです。

「米中代理戦争」を闘う日本と韓国

――韓国はこの一事をもってしても、輸出管理のいい加減さを問われますね

鈴置: 行方不明のエッチングガスの行き先も興味深いところです。北朝鮮なのか、中国なのか。もう1つは、誰がこの野党議員に「日韓の統計の不一致」を教えたか、です。

――その前に、誰かが「不一致」を日本に教えて「韓国疑惑」を国際的にかきたてさせたのかも……。

鈴置: 完全な「米国黒幕論」ですね(笑い)。私はそこまでの証拠は持っていません。ただ、今になって思い出すことがあります。

 韓国の「離米従中」がはっきりとしたのは朴槿恵(パク・クネ)政権(2013年2月25日―2017年3月10日)からです(『米韓同盟消滅』第2章「『外交自爆』は朴槿恵政権から始まった」参照)。

 2014年のことでした。ある韓国の識者が「結局、日本と韓国は『米中代理戦争』を闘うことになるのです」とポツリと言ったのです。ついに、その時が来たようです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月16日掲載

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