麻薬蔓延、武器横流し…「北方4島」共同経済活動の難しすぎる大前提

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プーチン大統領

 ウラジーミルの口からは返還の“へ”の字も出なかった今回の首脳会談。そんな中“唯一の成果”と目されているのが、北方4島に日本企業も進出できるようになる、共同経済活動案だ。ただし実現には、乗り越えるには難しすぎる“大前提”が存在している。

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 約1万7000人のロシア人が居住する北方4島の治安状態は現在、悪化の一途を辿っている。

 ロシア極東事情に詳しいジャーナリストが言う。

「ウラジオストクから運ばれてくる麻薬が蔓延しています。ロシア本土より監視の目が緩いことから格好の取引場所となっており、密売人たちに重宝がられているためです。また、択捉島にあるロシア軍基地から横流しされた武器を市民が所有していて、それを使っての犯罪も横行。道路事情も悪く、悲惨な交通事故が地元紙の紙面をよく飾っています。警察などの役人たちの間では、横領や賄賂が常習化しています」

 まずこうした環境下で日本人が健全な経済活動に勤しむことができるのか、甚だ疑問である。

 それに加えて今回の合意によって、さらなる難問が覆いかぶさることになる。

 時事通信元モスクワ支局長で、拓殖大学教授の名越健郎氏の話。

「当然のことながら企業が他国に進出する場合、従業員はその国の法律で裁かれます。しかし、日露双方が主権を訴えている北方4島においてはそうはいかない。もし日本人が現地で罪を犯した場合、日本とロシア、どちらの法で裁くのか。ロシア側は当然、自国の法律で裁くことを望むのでしょうが、それを呑めば、日本が北方領土内でのロシアの主権を認めることに他ならない。一方、日本人だけに治外法権を認めてもらうということにしても、それはロシア支配下での“お願い”になり、日本が是認できる話ではないのです」

 この難しい案件をクリアするためには、日露両国が合意の上で4島を特区化し、そこだけに通用する独自の法律を共同で整備していくことが必要となる。しかし、

「独自の法整備なんて口で言うほど簡単な話ではない」

 とは、ロシア情勢に詳しいユーラシア21研究所理事長の吹浦忠正氏。

「例えば道路交通法ひとつとっても、北方領土で走っている車は大半が日本製でもちろん同じ右ハンドルですが、道路は日本とは逆に右側通行。警察などが大変でしょうね。こうした事例が他にも山のように存在しているわけです。文化の異なる国同士が議論して新たな法体系を築きあげることは世界的に例がなく、多大な労力と途方もない時間がかかるでしょうね」

 治安という現問題に、法整備という新問題。とても効率よく“経済的”に進むとは思えないのだ。

特集「元KGB『プーチン』大統領に期待する方が大間違い! 新聞が書かない『おそロシア首脳会談』7つの不審」より

週刊新潮 2016年12月29日・2017年1月5日新年特大号掲載

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