厚労省、喫煙車両を設置する近鉄に「なぜできないのか」 建物内禁煙に向けた強引な介入

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 なんで君は逆上がりができないの? みんなできてるんだよ。できないのは君だけだよ。どうしてかな? ねえ、君だけなんだよ?

 こんな風に「先生」に言われたら、どう感じるだろうか。それも公衆の面前で――。

「いじめ」を受けた近鉄の特急

 11月16日、東京都港区西新橋の会議室。そこには100名超の「煙草関係者」がつどっていた。その場の「主」であり、業界で禁煙原理主義者と称されている厚生労働省の健康課長は、関西の私鉄大手である近鉄の担当者に詰め寄った。

「(ほかの私鉄でできているのに)近鉄さんだけなぜできなかったのか」

 近鉄の担当者は、弱々しい声でこう答えた。

「喫煙の方、お煙草を吸われない方、どちらにもサービスを提供するという考えで……」

 私鉄各社から喫煙車両が消えたなか、近鉄の特急にはまだ残っている。これを健康課長は「難詰」したわけだが、両者のやり取りを取材していた記者は、近鉄に同情しつつこう解説する。

「いくら今の世の中で嫌煙家が幅を利かせているとしても、現状では喫煙車両の設置は禁じられていません。つまり、民間企業である私鉄各社の判断次第なんです。それなのに、健康課長は近鉄を『劣等会社』扱いした。さすがにこの言い草には、『そこまで言うか』と苦笑が起きていたほどです」

 いわば逆上がりができない児童を、禁煙界の「先生」を気取る厚労省が衆人環視のもとで晒し者にした格好だが、一体なぜ、自主経営権を持つ民間企業に、役所が「介入」するかの如き態度がまかり通っているのだろうか。

「受動喫煙防止対策の強化について(たたき台)」(厚生労働省)

■「建物内禁煙」

 目下、政府は2020年の東京五輪に向けて「スモークフリー社会」なるものを目指しており、10月12日には「受動喫煙防止対策の強化について(たたき台)」を公表した。

「受動喫煙防止を強化する法案の提出が検討されていて、その素案とでも言うべきものです」(同)

 注目点は、喫煙室の設置こそ可としているものの、「建物内禁煙」が謳(うた)われている点である。要は飲食店や職場での喫煙を一切認めず、煙草を吸う輩は、別途、喫煙室を作って押し込めろと迫っているのだ。例えば、地方の小さなスナックが煙吸引機を設置し、その横でだけ喫煙させる分煙措置を取ったとしても、「建物内喫煙」にあたるため認められない。しかもたたき台には、違反した場合には施設管理者や喫煙者に罰則を科すこともあると明記されているのだから、愛煙家にとっては青ざめる内容なのだ。

 このたたき台について、厚労省等役所側が関係各団体から意見を聞く「公開ヒアリング」の場が、10月31日と11月16日にもうけられ、この後者の場で近鉄は「公開いじめ」を受けたのである。どうして、お前は今すぐに逆上がりができないのかと――。

 なお近鉄は、今後の受動喫煙防止強化の方針自体には反対していない。その近鉄でさえこの「仕打ち」なのだから、たたき台に反対する団体が、どれほどの目に遭うかは推して知るべしであろう。

特集「『建物の中は原則禁煙』!? 企業を強迫する厚労省『原理主義』はいかがなものか!」より

週刊新潮 2016年12月1日号掲載

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