90歳で大往生の瀬川昌治監督 三島由紀夫との交遊も

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 渥美清が「男はつらいよ」以前に主演した喜劇映画に、1967年に始まる東映の「列車シリーズ」がある。40歳目前の渥美が、車掌などを人情味豊かに演じた。

 去る6月20日に、90歳で大往生を遂げた、瀬川昌治監督こそ、この「列車シリーズ」やフランキー堺主演の「旅行シリーズ」などを手がけた喜劇の名手だった。

 25年、神田生まれ。平岡公威、後の三島由紀夫が、学習院で初等科から高等科までの先輩にあたり、親しく話す仲だった。

 ジャズ評論で名高い、兄の瀬川昌久さんは振り返る。

「昌治は三島さんを尊敬して慕っておりました。国文学者の清水文雄先生に学び、文芸部でも一緒。文学だけでなく映画についてもよく話していたようです」

 三島が時代劇のファンと知って嬉しかった、と後に瀬川監督は述懐している。

 42年、三島が編集を担っていた校内誌の輔仁会(ほじんかい)雑誌に投稿した文章が、編集後記で誉められたこともある。

 復員後、東京大学文学部に進み英文学を学ぶ一方、野球部ではレギュラー選手。49年、新東宝に入り、60年に東映で監督デビューした。

 70年代半ばになると、映画よりも山口百恵の「赤い」シリーズなどテレビドラマでの演出が増えたかと思ったら、日活ロマンポルノの監督に初挑戦して驚かせた。

 84年の「トルコ行進曲 夢の城」の主演は奈美悦子、原作は風俗取材の第一人者、広岡敬一のドキュメントだ。風俗嬢の悲哀とたくましさ、プロ根性まで描き、しかも笑いを誘う。さすがの人情喜劇になっていた。

「笑わせることの難しさを知っていた。瀬川さんのような職人監督が映画界を支えてきたのです。厳しい条件下でも質を落とさず、時代の気分をくみ取り、観客を楽しませてきました」(映画評論家の白井佳夫さん)

週刊新潮 2016年7月7日号掲載

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