「田宮二郎」謎の猟銃自殺の真相は英国ロンドンで秘密手術

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 遺作となったテレビドラマ『白い巨塔』で主演を務めた俳優の田宮二郎は、年に1度は必ず訪問するほど英国・ロンドンを愛していた。それ故、晩年は仕事を受ける条件として夏季休暇を要求していたという。が、皮肉なことに、そのロンドンにこそ、自らを死に追いやった秘密が隠されていた。

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 43歳の田宮二郎が、寝室で米国パックマイヤー社製の上下2連式クレー射撃用散弾銃を使って自身の心臓を撃ち抜いたのは1978年12月28日のことだった。

 当時衝撃的だった自殺の理由には、「M資金詐欺被害」や「投資の失敗」、さらに「愛人トラブル」など複数の説が取り沙汰されたものの、未だ真相は謎のまま。が、彼の死から38年を経て、長男で俳優の柴田光太郎氏(50)が明らかにしたのは意外な事実だった。

「母(元女優の藤由紀子)から聞いた話ですが、父はよく1人でロンドンを訪れていたそうです。僕の本名は英光というのですが、その『英』は『英国』の表記にちなんでいるんです。それほど父はイギリスが大好きでした。父が向こうですることと言えば、友人と会ったり、買い物をしたり、1人で考え事をしたり……。それから、植毛手術も受けていたと思います」

 田宮は晩年、薄毛に悩まされ、外国製の育毛剤を大量に買い込むなど、頭髪を気にしていたという。

「母は“髪が薄くたっていいじゃない。かつらを被って新橋演舞場に出ることだってできるし、ハリウッドには(スキンヘッドの)ユル・ブリンナーのような役者だっている。色々な方法があるんだから、そこに捉われる必要はないわよ”なんて言っていました」

 が、田宮の悩みは深く、

「父方の祖母は肺結核で亡くなったそうですが、若い頃から病弱で、父を妊娠していた時期にもX線治療を受けたといいます。それで父は“X線の影響で薄毛になった”と話していたそうで、いつからか、ロンドンで植毛手術を受けるようになったわけです」

 当時は今以上に薄毛に対する偏見が強かった時代。民放の元プロデューサーが振り返る。

「大映に田宮と同期入所した藤巻潤(79)も薄毛でしたが、彼はかつらの使用を隠そうともしなかった。それで85年頃にアデランスのCMに出たら、途端に仕事が来なくなった、なんてこともあったくらいです」

 俳優にとって毛髪の有無が、その後の芸能活動を左右しかねない“不毛”な時代でもあった。

「父はあくまで田宮二郎というスターのイメージにこだわった。かつらを着けたり、薄毛のままで映画やテレビに出るようなことは、決して受け入れられなかったんでしょう」(柴田氏)

■額に糸を埋め込んで…

 日本を代表する二枚目俳優の“秘密手術”は、海を渡ったことで外部に漏れることはなかった。が、当時の手術は現在のそれとは異なり、患者に大きな負担を強いるものだった。

「当初は頭皮に錐のようなメスで穴を開け、直接、毛髪を埋め込むものだったと聞いています。でも、それだとすぐに毛が抜けてしまう。それで後から額に真一文字に特殊な糸を埋め込んで、その糸に毛髪を通すように固定する方法に変えたのです。ところがこれは激痛を伴うものだったらしく、以来、父は偏頭痛にも悩まされるようになった。父は30代の頃から精神が不安定に陥りましたが、死ぬまで続いた偏頭痛がその症状を悪化させ、最終的に自殺に至ったんだと思います」(同)

 元マネージャーの市村朝一氏(65)は、常に颯爽としていた田宮の姿が忘れられないと懐かしそうに話す。

「身内の私に見せる姿さえ、完璧なスターそのものなんだよね。例えばホテルで打ち合わせがある時は、エントランスに黒とグレーのツートンカラーのロールス・ロイスを横付けして降りて来る。まるで、銀幕からそのまま抜け出して来たように見えました」

 一方で、精神の不安定さはその度合いを強めていた。

「田宮は78年の夏前に『白い巨塔』の18話の撮影を終えて、例年通りロンドンに向かいました。ところが帰国すると、完全なうつ状態に陥っていたのです」

 それは、書斎に並べられた31話分の台本の状態からも明らかだった。

「渡英前に収録を終えた1話から18話までの台本は真っ白で綺麗な状態でしたが、19話以降の台本は手垢で黒ずみ、紙はヨレヨレ。うつの影響で極端に台詞覚えが悪くなり、何度も何度も手に取っていたからです」

 それでも田宮は主演の責任を全うするように、死のほぼひと月前の11月15日に『白い巨塔』の撮影を終えた。最終回の放送は自殺から1週間後で、視聴率はシリーズ最高の31・4%を記録したのである。

「60周年特別ワイド 『十干十二支』一巡りの目撃者」より

週刊新潮 2016年2月25日号掲載

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