天皇家のお雑煮は丸餅3つに芋、大根で白味噌仕立て 元旦からフランス料理も

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 お正月に最も働いている日本人は天皇かもしれない。起床は午前4時。5時半から暗闇の中で、新年最初の宮中祭祀が始まる。『天皇陛下の私生活 1945年の昭和天皇』の著者、米窪明美さんが言う。

「年が明けて最初に天皇が行う神事が四方拝(しほうはい)です。皇居の中にある神嘉殿(しんかでん)という建物の前庭でかがり火を焚き、真薦(まこも)を敷いて周りに屏風を立てた中で1人、伊勢神宮、先帝の山陵、四方の神々に拝礼して、国の安泰と五穀豊穣を祈るのです。これは宮中祭祀の中で最も大事なもので、代拝がききません。天皇が病気などで親拝できない場合、中止されます」

 続いて「歳旦祭」。これは、年頭に際して天皇が宮中三殿(賢所、皇霊殿、神殿)で拝礼し、五穀豊穣と国民の加護を祈るという祭祀である。歳旦祭が終わると「晴御膳の儀」が待っている。

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「神に料理を捧げる儀式です。卓上には円柱形に整えられた大飯(おおい)(白飯)を中心に古式にのっとった料理が並べられていますが、天皇は作法に従ってそれに形ばかり箸をつけるだけ。侍従が盃に注ぐ冷酒にも口はつけません。これで晴御膳は終了です」

 元日の午前中、宮中は挨拶客で賑わう。朝食を済ませた天皇皇后は参列者が待機する部屋を次々と回り、皇族や内閣総理大臣、閣僚、最高裁長官などから新年の挨拶を受ける。客の中には「大菊花会」と呼ばれる、皇族の血をひく親戚たちもいる。皇籍を失った元皇族は、元旦と天皇誕生日のような機会に、宮中への出入りを許されるのだ。

元旦からフランス料理

 数時間立ちっぱなしで挨拶を受け続けたあとに摂る元旦のランチはフランス料理。天皇の料理番・秋山徳蔵が主厨長になってから、そう決めたのだという。フランス料理といっても、ワンプレートランチ。直径25センチほどの皿に鯛やローストビーフ、そしてご飯が少しずつ盛りつけられ、サラダとコンソメスープがつく。新年の挨拶が第一の目的という考えに基づく実務的な食事だが、ふだんの昼食も5、6分しか時間をとれないことがあるという。

 正月は、朝食と夕食も儀式の延長線上にある。朝食は「御祝先付」と呼ばれ、勝栗、のし鮑、昆布を盛り込んだお口祝のあと、蛤の潮汁や小ぶりの伊勢海老を縦半分に割ったものなどを食べる。このとき出される雉子酒は、あぶった塩辛い雉の胸肉に甘口の日本酒を注いだもので、ふぐのひれ酒を想像してもらえばいい。独特の「雅な味」のひとつだ。

 夕食は2部構成。「御祝御膳」でスタートし、「入夜御盃」で終わる。「入夜御盃」は元旦最後の儀式で、天皇はこのときお雑煮を食べる。ふたたび米窪さんの解説。

「宮内庁大膳課に勤めていた渡辺誠さんによれば、和食担当がついた餅を使って、直径3センチ、厚さ1、2センチほどの腰高小餅(丸餅)を作り、焼かずにお湯で柔らかくもどします。1人分3つをお椀に入れ、鶴に見立てた小芋や、亀の甲羅のように切った大根も入ります。味付けは白味噌仕立てでかなり甘いそうです」

 こうして天皇は長い一日を終えるのだが、お正月の仕事はまだまだ続く。翌2日は朝9時半から5回にわたり、皇居・長和殿のベランダに姿を見せ、参賀者に手を振るのだ。そう、私たちのよく知る一般参賀でのお姿は、分刻みで組まれた正月のお仕事の1つにすぎないのである。

デイリー新潮編集部

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