インテリが人権侵害と叫ぶ「万引き画像」公開、店の生存権は

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 全国で相次ぐ、万引き被害店の「犯行画像」公開。店主の怒りもかくや、と納得だけれど、テレビや新聞などでは一部のインテリたちがこれを「人権侵害」とのたまい、横槍を入れている。なるほどご立派な「正論」だが、では伺う。店の「生存権」は一体誰が守るのか?

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防犯カメラを付けても死角はできてしまう(写真はイメージ)

 眼鏡小売店「めがねお~」がHPに“万引き犯”の写真をアップしたことで話題を呼んだ今回の騒動。返却か弁償をしなければモザイクを外す、と宣言し、2月13日には容疑者が逮捕されるに至った。

〈「人権侵害」指摘も〉と見出しを打った朝日新聞をはじめ、大メディアは「店主の気持ちはわかるが、問題点もある」式の取り上げ方をした。その一方で、NPO法人「全国万引犯罪防止機構」の福井昂事務局長は「店主たちがそれほど困っているということをどれだけ理解してもらえているのでしょうか」と語り、万引きGメンの伊東ゆう氏も「店を責めるのはお門違い」と、店側の苦しみを訴える。

 実際、小売店に聞いても、

「万引きはイタチごっこ。防犯カメラを付けても死角は生まれますし、それをチェックする時間も膨大にかかるのです。月に2万〜3万円はやられますが、コストとして諦めていますよ」(都内のコンビニ店主)

 と言うのは随分マシな方で、より利益率が低い書店に至っては、

「少年ジャンプ1冊盗まれると、50冊も売らないとカバーできません。うちの店は万引きで赤字になっていると言ってもおかしくない。他も同じで、書店店主の集まりでは、いつも万引きの苦労話ばかり話題になっていますよ」(中部地方の書店店主)

 と嘆くのである。

■生存権の問題

「公開なんて当たり前。むしろ甘いくらいで、経営者の当然の権利ですよ」

 と断じるのは、福島県はいわき市在住の芹沢道雄氏。この芹沢氏、かつて同市で「セリザワ書店」を経営し、四半世紀前、万引きに耐え兼ね、防犯カメラで撮影した画像をビデオにして売ることを宣言。議論を巻き起こした、言わば、本件の“パイオニア”的存在である。

 芹沢氏は言う。

「何せ、被害が酷くてね。知り合いの本屋の奥さんはノイローゼになってしまったくらい。結局、売るのはやめたけど、効果はあって、万引きはゼロになったばかりか、地域で少年犯罪が減ったと警察に褒められたくらいです。あの時は“火つけてやるぞ!”なんて電話もあったものだけど、逆に“よくやってくれた”という励ましも多かった。人権なんて言っているのは、自分が関係ないから。自分が被害に遭っていたらとてもそんなこと言えるはずがないよ」

 当事者にとっては、まさに生存権の問題。「加害者の人権」なんて言われても、寝言にしか聞こえないことは容易に想像しうるのだ。

■イデオロギーファースト

 そもそも、である。

 モザイクを外したとして、本当に店主は名誉毀損の罪に当たるのだろうか。

「確かにその構成要件は満たしていますが……」

 と述べるのは、元東京高検検事の川口克巳弁護士。

「名誉毀損は、それが専ら公益を図る目的であった場合、免責されます。この場合、21万円という多額の被害からの回復を図るのは、社会秩序を守ることの一環として捉えることも出来る。公益性があると解釈する余地はあるのです」

 仮に公益性が認められなかったとしても、被害者感情を考えれば、あえて「処罰」するほどの違法性があるかは疑問だというのだ。

「そもそも、今回のケースを『万引き』とする報道の仕方が気にかかる。態様、金額から見て、侵入窃盗タイプの重大犯罪です」(同)

 評論家の呉智英氏も言う。

「『自力救済はダメ』『国家に委ねるべし』というのは、法律論としてはその通り。近代国家は国民から処罰権を召し上げていますからね。でも逆に言えば、それも『法治主義』なるひとつのイデオロギーに過ぎません。一方で万引きの被害者が救済されないという現実がある。それを補おうとする店主の自衛行為を『私刑』と批判する人は、イデオロギーを守ることが最優先。現実に盲目な余り、目の前の現象がその矛盾を衝いていることに気が付かないのです。まさに『イデオロギーファースト』で、被害者のことなど眼中にはないのです」

特集「インテリが人権侵害とのたまう『万引き画像』公開」より

週刊新潮 2017年2月23日号掲載

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