どうなる「東芝」大解体ショー 原発立国を謳った「経産省」の責任は

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 子会社である米原発メーカー「ウェスチングハウス(WH)」の巨額赤字を受け、東芝が7000億円に上る損失を明らかにしたのは昨年末のことだった。3月末の決算で債務超過になる恐れが生じているが、そのウラには経産省の責任も見え隠れして――。

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経産省の責任は?

 創業78年。連結会社も合わせれば、従業員数は約19万人で、昨期の売上高は約5兆円。過去に経団連会長も2人輩出。東芝が日本のトップ企業の一つであることは論を俟(ま)たない。

 1969年からアニメ「サザエさん」の提供を務めていることも、企業イメージに大きく寄与。東芝はその上品な社風から「お公家集団」と呼ばれた。それが今、なりふり構わず“金策”に走っている姿は、もう見てはいられないのだが、危急存亡の秋(とき)とすれば、それも仕方ない。

 では、東芝はなぜ、このような窮地に追い込まれたのか。東芝だけが悪いのか。

■原発事故で一変

 損失の根源となっているのは、WH社である。

「東芝がこの会社を買ったのは2006年のこと」

 と述べるのは、経済誌の記者だ。

「当時、経産省は、『原子力立国』を掛け声に、国内の原発を増やし、海外に原発を輸出する。そんな計画を立てました。そこに乗ったのが、東芝。売りに出されていたアメリカのWH社を6000億円の高値で手に入れたのです」

 東芝が持っている原発の建設技術は、沸騰水型。日本ではこれが約半分を占める。一方、WH社のそれは海外で主流の加圧水型。東芝はこれで海外販路を狙ったのだ。

 しかし、2011年、福島第一原発の事故が状況を一変させる。これにより、原発の建設事情も一変。原子力産業は曲がり角を迎えるのだ。ここで東芝は方向転換出来れば良かったが、なおも固執。赤字は増大し、今日を招いてしまった。

「こうした背景があるために、官邸や経産省では、東芝の問題に、腫れ物にさわるように接しています」

 と言うのは全国紙の政治部デスク。

「当時、『原子力立国』を高らかに謳い、日本のメーカーに原発の海外輸出を勧めた経産省のメンバーには、現・首相秘書官の今井尚哉さんもいますし、いま経産省の経済産業政策局長を務める柳瀬唯夫さんもいる。万が一、東芝に何かあれば、自らへ批判が向いてくるかもしれない。それは避けたいですが、あまりに一民間企業の救済に政府が関わりすぎるワケにもいかない。そこで現状、様子見をしていますが、内心、ビクビクというところでしょう」

 むろんWH社を放置した東芝が悪いのは間違いないが、その大本が国策的だったのは誰もが認めるところ。東芝は、梯子を外された、とも言えるのである。

■債務超過の可能性は

 責任問題はともあれ、仮に東芝が破綻すれば、20万人近い雇用が失われることになる。国の経済に与える影響も大きい。

 この3月、彼らは実際に債務超過に陥るのか。

「回避は厳しいのでは」

 と述べるのは、経済ジャーナリストの町田徹氏である。

「昨年末、巨額損失の件が発覚してからの東芝の対応を見ていると、残りひと月あまりで、売却にしろ何にしろ、ネゴシエーションできる能力を持っているとは思えない。危機感もあるようには思えない。そもそも、何度もゴタゴタ続きのあの会社には今回の債務超過を解決するのは、難しいでしょう」

 一方で、

「現実には、何とか回避できるのではないか、と見ています」

 と、経済ジャーナリストの松崎隆司氏はこんな見立てだ。

「既に日本政策投資銀行が支援を検討し、三井住友などのメインバンクに加え、地銀もバックアップの方針を決めた。資金繰りの案が上手くいかなかったとしても、彼らも東芝が倒産の危機にでも陥れば、貸金が不良債権化しますから、回避したいはず。最終手段としては、デット・エクイティ・スワップ、つまり、貸し付けたお金を株に換えて、負債を消す……というような形での支援で、債務超過を防ごうとするのではないでしょうか」

 20万人の雇用に万一のことがあれば、アベノミクスどころではない。前述の通り脛に傷もつ政府が、銀行になりふりかまわぬ“指導力”を発揮するというシナリオもうなずける。

■タコが足を…

 ところが、である。

「仮にこの3月末の危機を乗り切れたとしても、その後の東芝の将来は厳しい。断末魔の叫びが聞こえると言っても良いでしょう」

 と言うのは、経済ジャーナリストの磯山友幸氏。

「長らく東芝は、半導体と原発を経営の2本柱としてきた歴史がある。うち現状で収益の見込めるのは半導体部門でした。しかし、この分野を切り離し、採算が取れない原子力発電部門を会社に残している。会社の再建策としては、かなり歪(いびつ)な形となっているのです」

 この事情について言葉を継ぐのは、全国紙の経済部デスクである。

「東芝が買ったWH社は、巨額の損失を抱え、国内に売却するにも引き受け手がいない状況です。かと言って、原子力自体が安保上、極めてセンシティブな事業であるため、中国やロシアをはじめ、安易に外国に売るワケにはいきません。そもそも、原発関連事業については、言わば国策であり、東芝は福島第一原発の廃炉も担っているため、それを潰すこともできないのです」

 東芝は、WH社を抱えたまま、原発事業を継続することになるのか。成長が見込めない事業を抱え込まざるを得なくなっているのである。

「そうすると、何度も債務超過の危機が訪れるでしょう。その損失を埋めるため東芝は、今後も半導体やエレベーターなど、有望分野を売って、資本を増強するしかなくなる。つまりタコが自分の足を食べるようなもので、しかも、そのタコの頭が腐っているのだとしたらどうしようもない。今後の東芝は、こうして次々と会社を切り売りする必要に迫られていく、つまり“解体”されていくことになると思います」(同)

 重から軽まで、あらゆる“電機”に関わって繁栄を極めた東芝。それが原型をとどめないまでに切り刻まれる未来は、現実味を帯びている。シャープの身売りに続き、日本のモノづくりの崩壊が、より一層印象付けられるが、とは言え、日本はそれに代わる未来を未だ見通せていないままだ。

特集「サザエさんをお茶の間に届けて半世紀 経産省にも責任がある『東芝』大解体ショー」より

週刊新潮 2017年2月9日号掲載

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