山本地方創生相、インサイダー捜査中止を画策(下) 「“山本が事件を抑えるから”と聞かされていた」

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 第3次安倍再改造内閣で抜擢された、山本幸三地方創生相(68)。その山本地方創生相が、あるインサイダー事件について国会質問を行ったのは、2012年3月5日の衆院予算委員会第一分科会でのことだった。この場で山本地方相は、〈私の知人〉の金融会社社長が事件に関わっているとし、〈いつまでたっても結論が出ない、これが私は大問題だと思っております〉〈本当に必要なのか〉と、SESC(証券取引等監視委員会)の調査を問題視した。

 国会質問では伏せられたが、このインサイダー事件とは、12年6月下旬に摘発された「日興インサイダー事件」のことだった。これは、日興コーディアル証券の投資銀行副本部長だった吉岡宏芳被告(55)=上告中=が、横浜市にある金融会社の加藤次成元社長(71)=懲役2年6カ月執行猶予4年の一審判決が確定=に、公表前の株式公開買い付け(TOB)情報を漏洩し、金融商品取引法違反の罪に問われたというもの。吉岡被告は銀行員時代から加藤元社長に知人への融資を依頼してきたが、そのほとんどが焦げ付いたため、代償として情報を流していたという。

 山本地方創生相の“私の知人”とはこの吉岡被告を指すが、2人はそれ以上の関係だったという。

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相関図

“日興インサイダー事件”のもう一方の当事者、横浜で金融会社を営んでいた加藤元社長の側近が明かす。

「吉岡さんから紹介された融資先の一つに、榊原康寛という人物がいました。彼は、トラックの協会が所有する江東区新木場や千葉県市川市の土地を転売し、利益を得ようとしていた。社長は榊原さんとの間で、売買の手付金となる2億円を10年3月に用立て、3カ月後に2億5000万円で返してもらう契約を交わしました。ただし、金銭消費貸借だと利息制限法に引っかかるから、書類上は不動産売買の格好を取ったのです」

 しかしながら、返済期日になっても、2億5000万円が戻ってくることはなかった。

「当然、社長は紹介者である吉岡さんを問い詰めました。すると、“ブルーエコノミー”というファンドの投資概要書と宴会場の席次表をわざわざ会社まで持ってきた。社長にそれらの資料を見せながら、“榊原さんはこのファンドで何百億円も集めるから間違いなく返済できます”という言い訳をしたのです」(同)

■杉本彩も紹介

 吉岡被告が持ってきたという投資概要書によれば、ファンドの運営にあたるのは、「ブルーエコノミー・ホールディングス」という会社。産業廃棄物最終処分場とコンサルティング会社に投資し、年利10%で運用すると謳われている。

 そして、同社の代表取締役こそ、山本幸三その人だったのだ。最高顧問に就いたのは、愛知和男元環境庁長官である。

 さらに、宴会場の席次表には、その2人のほかに福田進元国税庁長官や大蔵接待事件で逮捕された井坂武彦元道路公団理事ら、ファンドの運営について話し合いを持ったメンバーが列挙されていた。

 榊原という人物と、山本地方創生相はどのような関係なのか。

「十数年前に、福岡出身の大物右翼の息子の紹介で、山本先生は榊原さんと知り合い、落選中も何かと面倒を見てもらっていたと聞きました」

 と明かすのは、永田町関係者だ。

「その後、榊原さんは山本先生に、吉岡被告だけでなく、女優の杉本彩さんなども引き合わせている。10年1月の衆院予算委員会の席上、山本先生が杉本彩さんとの食事の約束を携帯メールで打っていて、週刊誌沙汰になったこともありました。榊原さんは『ブルー』社を起ち上げたとき、ファンドの顔として大蔵OBの政治家である山本先生がお誂(あつら)え向きだからと代表取締役に起用したのです」

 ところが、鳴り物入りで始まったファンドだったものの、結局、日の目を見ることはなかった。

■“山本幸三が事件を抑えるから”

 加藤元社長の側近が続ける。

「『ブルー』社が設立されたのは、加藤社長が榊原さんに2億円の融資を行った1週間後のことです。のちに、そのうちの5000万円が資本金に流用されたことがわかった。挙げ句、返ってきたのは一部だけ。11年3月、弁護士を立てて解決金を含め1億7500万円を榊原さんに支払ってもらう和解契約書を結んだのです」

 SESCからの強制調査を受けたのは、その返済交渉をしている最中だった。

「初めの頃、加藤社長は週に2回くらい金融庁に呼び出されていました。ですが、吉岡さんから“お互いの話が食い違うと困るから、取り調べは全部拒否して欲しい”と頼まれた。なので、社長はメニエール病の診断書を取ってSESCに提出し、取り調べには応じないようになりました。社長は吉岡さんに、“絶対に逮捕されることはないから”“山本幸三が事件を抑えるから大丈夫だ”と何度も聞かされていた。当時、山本さんは衆院の財務金融委員会に所属していたし、なんらかの影響力を期待していたみたいでした」(同)

 しかも、驚くのは、加藤元社長は、SESCの問題を山本地方創生相に国会質問で取り上げさせるからと、吉岡被告から耳打ちされていたというのだ。

 されども、結果的には“捜査中止”に奏功することはなかった。

■利益誘導

 とはいえ、山本地方創生相が国会議員という立場を利用し、吉岡被告に便宜を図ったという事実が消えるわけではない。

 過去の例を挙げれば、KSD事件、リクルート事件、もっと古くは、撚糸工連事件でも国会質問から贈収賄事件へと発展している。

「国会質問を頼んだ人物から、その見返りに金銭が渡っていたとしたら、受託収賄罪に問われることになります」

 と、日本大学の岩井奉信教授(政治学)は指摘する。

「仮に、金銭が渡っていなくても、山本大臣の場合、道義的責任は極めて重い。国会とは、有権者から信託を受けた政治家が公的な問題を議論する場です。にもかかわらず、山本大臣は、個人的にかかわりのある問題を、さも公的な問題であるかのようにすり替えている。そのうえ、国会議員の職務権限を行使して、ビジネスパートナーを守るような質問をし、自分が代表取締役を務める会社への利益誘導をしているのです」

 公私混同が、これほど甚だしいケースは極めて珍しいという。

 では、当事者らは何と答えるか。

 初めに吉岡被告の弁護人、佐藤博史弁護士に聞くと、

「本人に確認したところ、“山本さんに国会質問を頼んだことはないし、おそらく頼んだのは榊原さんだろう”と。それから、加藤さんに対し、山本さんに事件を抑えさせるからという話をしたこともまったくないと言っていました」

 そこで、「ブルー」社の榊原オーナーにも取材したものの、黙して語らず。

 最後に、山本地方創生相の回答は以下の通り。

「知人の榊原氏から設立する会社の代表取締役に一時的にお願いできないかとの要請があり、“非常勤、無報酬かつ一時的”という条件で引き受けました」

 国会質問については、

「参考人として調査を受けている証券会社部長の犯則調査(編集部注・刑事告発を行うための調査)に関する具体の例を知る機会があったので委員会で犯則調査に関する質問をしました。質疑を行うことを他人から指示されたことはありません」

 だいたい、国会議員でありながら、ファンドを運営しようとすること自体、到底、理解できるものではないのである。

 高い支持率に胡坐(あぐら)をかき、安倍内閣の身体検査は疎かになったというほかない。

 山本地方創生相の“爆弾”が破裂すれば、政権瓦解の危機に立たされるのは間違いないのだ。

特集「『安倍内閣』と『金融犯罪グループ』の接点 『インサイダー』捜査中止を企てた『山本幸三』地方創生大臣の国会質問」より

週刊新潮 2016年9月8日号掲載

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