満天の星空みたいに、壁にゴキブリがびっしりと…〈清掃人は見た! あなたの近所の隠れた「汚部屋」(1)〉

国内 社会

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 過剰に「清潔」に気を遣う現代社会の陰で、その対極にある「汚部屋(おべや)」がなぜか増殖中という。閉ざされたドアの向こうには、何が“堆積”し、誰が“棲息”しているのか。ノンフィクション・ライターの福田ますみさんが、清掃業者の証言から描く、その隠された実態。

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 世は春爛漫の候だが、あえて季節外れの句をひとつ。

 秋深き隣は何をする人ぞ

 有名な芭蕉の俳句である。

 晩年の芭蕉が「孤独」をあらわした傑作とされるが、寒くなって障子や雨戸が閉められ、隣人の動静がわからなくなったという「季節感」も、句に趣を添えているのであろう。

 だが時は流れ、移ろう季節の風情を味わうのに、現代の集合住宅は全く不向きだ。夏冬問わず、常時ドアは固く閉ざされ、中の気配を窺うこともできない。それこそ、壁一つ隔てた向こうにどんな人間が住んでいるか、知るよしもないのだ。

 こうした集合住宅に、今、密かな危機が忍び寄っている。たとえば、こんな心当たりはないだろうか? 自分はきれい好きと自負しているのに、なぜか部屋にゴキブリが大量発生! それはもしかしたら隣室に、天井まで届くほどの生活ゴミの「地層」ができあがっているからかもしれない!

 そう「汚部屋」、つまりゴミマンションが増殖中なのだ。

 以前から問題になっていたゴミ屋敷は一軒家だから、近隣への迷惑という点では、ゴミマンションの方がより深刻で切実だ。しかも密室であるため可視化されず、その分、厄介でもある。

 深刻化の表れだろうか、ネットで、「ゴミ+部屋+清掃」と検索すれば、山のように「ゴミ屋敷」清掃代行業者の名前がヒット。多くは便利屋やリサイクル、産廃、引っ越し業者などが本業の傍ら行っているが、中にはゴミ掃除の専業もいる。

 毎日のようにゴミの山と格闘し、現代社会の「病理」とも言うべき「汚部屋」を知り尽くす彼らに、利用者の実態や傾向を聞いてみた。

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