サイコパスは遺伝が8割? 遺伝にまつわる「言ってはいけない」タブー

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「犯罪者の子どもは所詮、犯罪者なんだよ」

 2時間モノのサスペンスドラマあたりでは聞きそうなセリフである(言われた側は逆上して相手を殺したりするのだ)。そして、実社会でこんなことを公言したら、糾弾されること必至のセリフでもある。

 しかし、実際のところはどうなのだろうか。

「犯罪は遺伝するのか」といったテーマは社会的にはタブー視されており、語られることはほとんどない。また、言うまでもなく冒頭のような物言いは差別に直結するから、厳に戒めるべきである。

 とはいえ、こうしたテーマについての調査がないわけではない。

 海外では「サイコパスと遺伝」についての驚くべき研究結果も発表されているのだ。

 社会的にタブーとされるテーマについて、様々な研究の成果を紹介しながら論じ、ベストセラーとなっている『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(橘玲・著)では、「犯罪と遺伝」について、次のように述べている。

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 現代の精神医学では、犯罪を引き起こすような精神障害は「反社会性パーソナリティ障害」と呼ばれている。とはいえ、ずるがしこいひとや残酷な人間はどんな社会にも一定数いるし、これを安易に治療の必要な「病気」にしてしまうと、刑法における責任能力との関係でやっかいな問題が出てくるから、どこからを「障害」と見なすかはあいまいにならざるを得ない。

 だがそれでも、誰が見ても「異常」な人間はいる。

 イギリスで、1994年から3年間に生まれた5000組の双子の子どもたちを対象に、反社会的な傾向の遺伝率調査が行なわれた。それによると、「冷淡で無感情」といった性格を持つ子どもの遺伝率は30%で、残りの70%は環境の影響だとされた。この「環境」には当然、子育ても含まれるだろうから、これは常識的な結果だ。

 次いで研究者は、教師などから「矯正不可能」と評された、きわめて高い反社会性を持つ子どもだけを抽出してみた。

 その結果は、衝撃的なものだった。

 犯罪心理学でサイコパスに分類されるような子どもの場合、その遺伝率は81%で、環境の影響は2割弱しかなかった。しかもその環境は、子育てではなく友だち関係のような「非共有環境」の影響とされた。(※)

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 もちろん、あくまでもイギリスでの一研究結果に過ぎず、また犯罪全般ではなく「サイコパス」に限っての話である点は忘れてはならない。安易に「犯罪と遺伝」を結びつけるのは許されないことだろう。しかし、昨今、何不自由なく育ったにもかかわらず、異常な殺人や誘拐などをおこなった「少年」「少女」のニュースがよく伝えられる。恵まれた環境で、教育熱心な親に育てられたのに、理解しがたい残酷な事件を起こす若者の「動機」については、多くの場合、納得のいく説明はなされないままだ。

 こうした事件について考える上では重要な視点なのではないだろうか。 

※参考文献:バーバラ・オークレイ『悪の遺伝子』(イースト・プレス)

デイリー新潮編集部

2016年5月12日掲載

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