1985年以降生れは「ほめられ世代」 心理学博士・榎本博明氏「人為的に作られた自信は嫉妬や僻みになりやすい」

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「子どもの気持ちを傷つけないものの言い方」

「子どもに自信をつけさせるコーチング」
 
 驚いてはいけない。昨今の育児書や子育て雑誌は、こうしたスキルを大真面目に教えている。親はもう自然体ではダメで、テクニックやスキルを学んでから子育てをしなければならないようだ。

 こうした記事に共通するのは、子どもをほめて育てることを大前提としていること。だが「ほめて育てる」教育には3つの盲点があると、心理学博士で『ほめると子どもはダメになる』の著者の榎本博明氏は指摘する。そして、ほめられて育った世代、具体的には1985年以降に生まれた世代に異変が起きているとデータをもとに語っている。

■(1)「ほめて育てる」は欧米の事情

「ひとつめの盲点は、これが欧米からの輸入品ということです。20年ほど前、子どもや若者の自己肯定感が低いから、もっとほめて自信をつけさせないといけないという声が日本の教育界や親の間に広まり、強く推奨されるようになりました。

 ですが欧米と日本では、文化的伝統から慣習、親子のあり方まで様々な違いがある。ほめることだけ表面的に真似て、上手くいくはずはないのです」

■(2)叱れない親、しつけのできない親の増加

「ほめて育てる」弊害とは

 本来の「ほめて育てる」は、叱ることを否定していない。だが日本では、ほめることばかりに熱心になりすぎ、我が子を叱ることを避ける親、しつけのできない親が増えていることが2つめの盲点だ。

 実際に、母親が子どもを注意していたところ、ほかの母親が割り込んできて「叱るのは良くないんですよ」と言われたという事例も聞かれる。

「『子どもが育つ魔法の言葉』(ドロシー・ロー・ノルト著)は、この教育法の普及に最も影響した本です。『けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる』というフレーズをご存知の方もいるでしょう。

 しかし同書が説いているのは、言葉でほめつつも、愛情をもって厳しくしつけること。『衝突したときには子どもの意見を尊重し歩み寄るように』などの記述は日本の親には注意が必要で、元々は厳しすぎて子どもに譲歩しない欧米の親向けだということを知っておいて頂きたい」(榎本氏)

■(3)ほめて育つのは不安定な自信のみ

 そして3つ目、最大の盲点は、「ほめても自己肯定感は育たない」ことだという。

 これは昨今の育児書を読み込んだ親ほどショックかもしれない。

「ほめられることで、子どもが失敗を恐れ、消極的になることを証明した心理学実験があります。

 そして日本の若者の自己肯定感はといえば、大きく下がる一方なのをご存知でしょうか。

『高校生の生活意識と留学に関する調査――日本・アメリカ・中国・韓国の比較』(日本青少年研究所)で、「自分はダメな人間だ」という項目に「よくあてはまる」と答えた高校生の比率は1980年に12・9%だったのが、2002年に30・4%に増え、2011年には36・0%と1980年のほぼ3倍にまで増加しました。

 ほめられることで人為的に作られた自信は、本当の自信ではありません。嫉妬や僻みに形を変えやすい『脆くて不安定な自信』なのです」(榎本氏)

 30代前半までの若者たちの多くは、家庭や学校で「ほめて育てる」漬けで育ってきた「ほめられ世代」とも言える。今時の若者たちは傷つきやすくて意志が弱い、などと言われる原因の一つはここにあるのかもしれない。

 榎本氏は言う。

「ほかの世代に比べ、若手世代では本物の自信に裏打ちされたタフな人間は希少です。ですからタフであるだけで目立ち、重宝がられ、活躍していくでしょうね。そして今こそ、『ほめて育てる』教育の功罪を議論すべきときではないでしょうか」

デイリー新潮編集部

2016年3月18日掲載

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