「田中俊一原子力規制委員長は総理大臣よりも偉い」規制委員会の越権行為を指摘 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(3)〉

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 時に“御用学者”と誤解をされる、4名の専門家による座談会。原子力規制委員会が、馳浩文科相に対して行った勧告は、高速増殖炉「もんじゅ」の運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるべき、というものだった。この勧告に対し、岡本氏は“もんじゅの安全性とは関係がなく、世間に誤解を与えてしまう”と指摘。今回は、規制委員会という存在を考える。

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【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 モノの本質が見えていない規制委員会が、もんじゅに関する勧告を出したわけですが、安全を監視すべき規制委員会が、運営主体を交代しなさいと勧告して、もんじゅの運営に切り込むのはおかしい。

【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 越権行為です。国の原子力政策を決めるのは国民であり、それを代表する国会、内閣です。ところが一人の人間がこういう勧告を出すと、何十年も続けてきた日本の原子力政策を変えてしまえることがわかった。今、ナトリウムを使った高速増殖炉をハンドリングできるのは、もんじゅをやっているJAEAの人たちしかいません。彼らが力を発揮できるように規制をすべきなのに、全否定してしまっては受け皿がない。それこそ中国やインドの人を連れてくるしか……。

〈※中国はFBR(高速増殖炉)の試験炉を建設し終え、インドも出力50万キロワットのPFBR(高速原型炉)が臨界間近。(1)を参照

【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 中国人にやってもらいましょうよ。

【奈良林】 規制委員会がいわゆる3条委員会として、強大な権限を与えられた以上、そのトップは公正で高い見識を持っていることが条件だったはずですが、強大な権限を持つと、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーそのものになってしまい、誰も逆らえません。

【澤田】 規制委員会の田中俊一委員長は以前、東海村のエネルギー政策のアドバイザーを務めた際、明確に脱原発を打ち出していました。今の立場をたくみに利用して、国家規模で脱核燃料サイクルをやろうとしているのは、いかがなものか。

【岡本】 アメリカならNEIや議会、ACRS(原子炉安全諮問委員会)が監視しますが、日本では自分で勝手にできる。総理大臣でもできないことができる。たぶん日本で一番偉い人です。今回の勧告自体、世界中から「どうしてそうなったの?」と、驚きをもって受け止められ、世界で最も危険な規制をする日本の規制委員会の、実力のなさを示しちゃった。核燃料やナトリウムの安全な運用はJAEAにしかできません。安全とは直接関係ない部分のトラブルを受けて全部変えろとは、原子力を知らない人の言うことです。

【澤田】 保安規定に関して形式的なミスをあげつらって、安全が確保できていないと言っていますが、根拠が示されていません。

【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 事業者と規制委員会がもう少しコミュニケーションを取っておけば、事前にやれたことがあったのではないか。通常、勧告が出る前には、相当な根回しが必要だと聞きますが、今回はそれがなかったので特異な感じがします。JAEAは旧原研(日本原子力研究所)と旧原燃公社(原子燃料公社)が一緒になったもので、両者の間には今も確執があるとされ、それが今回の勧告にもつながったという話もありますが。

【奈良林】 13年4月30日付の北海道新聞で、菅直人元首相は、記者の「原発ゼロは、自民党政権に代わり白紙に戻されましたが」という質問に対し、「そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と答えている。彼が狙ったことが、本当に機能しているんです。

■法律違反を指摘して戦えばいい

【澤田】 勧告では、JAEAは「もんじゅを運営する主体として必要な資質を有していない」とされましたが、具体的な判断基準はまったく示されていません。規制委員会設置法第4条第2項に、規制委員会は「原子力利用における安全の確保に関する事項について勧告」できるとは書かれていますが、新たな運営主体を探せというのは、「安全の確保に関する事項」から大きく逸脱しています。

【岡本】 安全と関係ない勧告なのだから、法律違反を指摘して戦えばいい。福島の事故の原因は、真ん中に大きな穴が開いているのに端っこばかり一生懸命突いたからです。今回は、真ん中はちゃんとやっているのに、真ん中はいいから端っこをやれと言っている。これは原子力安全とは100%逆方向です。

【奈良林】 裁判官は法律に基づいて判断を下すので、自分が反原発でも反原発の判決は出せませんが、規制委員長はなんでもできてしまっている。20年間止まっているもんじゅは、機能すべき機能は炉心周りをはじめ自ずと限定され、そこをしっかり見ればいい。また運転中に関しては、もんじゅを動かすときの重要度分類に基づいたプログラムを作らなければいけない。ところが、それをJAEAの人が「作らせてください」と言っても、認めてもらえない。安全にするための提案を否定し、一方的に死刑宣告する。そんな規制委員会ってないと思います。

「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より

週刊新潮 2016年1月28日号掲載

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