バレンタインの陰謀?「カカオ」で脳が若返り実験

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 世の中は、バレンタインデー商戦の真っ只中。そのタイミングを見計らったかのように、高カカオチョコを大量摂取すると、大脳皮質が2歳も若返るという実験結果が発表された。しかも、それは内閣府とお菓子の「明治」が一緒に手掛けた研究に基づくものだった。

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今日はバレンタインデー

 毎年恒例のバレンタイン商戦だが、すでに市場規模は1340億円に達しているという。そのうち、チョコレートの売り上げナンバーワンは、ご存じ「明治」(東京・中央区)である。

 内閣府は1月18日、日本橋三井ホールに報道陣を集め、明治との共同研究“高カカオチョコによる脳への健康効果”の結果発表を行った。

 全国紙の記者が解説する。

「2013年から、日本を世界で最もイノベーションに適した国にするという目的のもと、内閣府が“革新的研究開発推進プログラム”というものを推し進めています。今回の研究は、そのうちの“脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現”をテーマにしたもの。明治がこれまでに行ってきた高カカオチョコの研究に政府が着目し、内閣府のチームが参加することになったのです」

 官民プロジェクトチームは、45〜68歳の男女30人(男女ともに15人ずつ)に高カカオチョコを毎日25グラム、板チョコ換算なら約半分の量を4週間食べ続けてもらった。高カカオチョコとは、カカオ成分が70%以上のもので、苦味も若干強い。ちなみに、普通のミルクチョコには、カカオ成分が40%程度しか入っていない。

 そして、高カカオチョコを摂取する前後の脳の健康度について、GM‐BHQ(大脳皮質の量)とFA‐BHQ(神経線維の質)という新たな指標を導入し、評価を行ったという。

「この2つの指標は、事前に20代から60代の男女144人のデータを解析し、どちらも平均値が100になるように設定しました。実験の結果、被験者30人のGM‐BHQは平均94・7ポイントだったものが、高カカオチョコの摂取後には95・8ポイントに上昇。一般的に、GM‐BHQは年齢を一つ重ねるごとに0・6ポイントずつ低下するそうです」(同)

 つまり、1・1ポイントの上昇ということは、単純に計算すれば、脳が2歳弱若返ったことになる。

 一方、FA‐BHQは、情報伝達の効率性を示すとされるが、たいした変化は見られなかった。

 神経内科の米山公啓医師が解説する。

「人間の脳をみかんにたとえると、大脳皮質はその名の通り、みかんの皮の部分です。実は、脳の大事な神経は、この皮に集中している。MRIで、大脳の断面を見たときに外側の灰色に映っているところが、大脳皮質です。神経細胞や、その一部で情報伝達のアンテナの役割を担う“樹状突起”、さらに、他の神経細胞との間を繋ぐシナプスなどで構成されます」

 官民プロジェクトは、MRI画像から大脳皮質の容積を測った結果に基づき、GM‐BHQを算出した。

「本来、大脳皮質の神経細胞は加齢に伴い、徐々に減少していきます。還暦を過ぎるころには、誰でもMRIで見れば一目瞭然というくらいに減っていき、さらに度合が進むと脳萎縮と呼ばれる状態になる。また、アルツハイマーなどの認知症によって脳萎縮は著しく進行しますし、うつ病患者にもその症状が見られることがあります」(同)

 ところが、高カカオチョコを摂取すると、これまでは減少するしかないと見られていた大脳皮質の容積が、たちどころに増えるという驚くべき結果が得られたのである。

■メカニズムは解明されず

 なぜなのか。

「高カカオチョコに限らず、食べ物によって脳の神経細胞そのものが増えることはあり得ません。ですが、樹状突起やシナプスは、20歳あたりで脳の成長が止まったあとでも、増加することが確認されています」

 と、米山医師は続ける。

「それを促すのが、BDNF(脳由来神経栄養因子)というたんぱく質の一種です。とりわけ、BDNFはウォーキングなどの有酸素運動で分泌量が増します。もしかしたら、高カカオチョコの摂取による刺激が、BDNFに作用したのかもしれない。その結果、樹状突起やシナプスが増え、大脳皮質が拡大したと推測するしかないのです」

 実際、官民プロジェクトの実験でも、高カカオチョコがどのようなメカニズムで大脳皮質に影響を与えているのかは未だ解明されていない。

 そもそも、実験結果自体に、懐疑的な専門家もいる。

 脳神経外科の築山節医師によれば、

「脳のなかでも記憶を司る部位である海馬で、新たな神経細胞が生まれるのは間違いのない事実です。複雑な路地も隈なく把握しているロンドンのタクシードライバーは、ベテランになるほど海馬が大きいことで知られている。しかし、大脳皮質の神経細胞そのものが増加するようなことはありませんし、たとえ樹状突起やシナプスが増えたとしてもミクロン単位ですから、大脳皮質が目に見えるくらいに拡大するのか、甚だ疑問であるというほかありません」

■“チョコレート・ファースト”

高カカオチョコを摂取すると大脳皮質が拡大する(写真はイメージ)

 まさか、内閣府が明治とともに企んだ、バレンタインデー売り上げアップのための陰謀だったのか。

 ここは、官民プロジェクトの責任者、“革新的研究開発推進プログラム”の山川義徳マネージャーに聞くしかあるまい。

「この実験のきっかけは、一昨年の5月に発表された愛知県蒲郡市、愛知学院大、明治の共同研究の結果です。蒲郡市周辺の347人が高カカオチョコ25グラムを4週間摂取したところ、血液中のBDNFが増加するという結果が得られました。本来、BDNFは海馬に多く含まれ、神経細胞の維持や成長を促進しますが、血液中にも存在し、骨や血管の生成を助けたりもします」

 そこで、今回の実験では一歩進んで、脳内でもBDNFが増加しているかを確認することにしたという。

「血液と違い、脳は簡単に採取できないので、GM‐BHQという指標を使って、それを検証しようとしました。実験の結果、GM‐BHQが上昇したのは、被験者30人中18人。6割で上昇が見られたわけです。年齢層で見ると45歳から55歳では、男性が9人中3人だったのに対し、女性の方は9人中7人と倍以上だった。56歳以上では、男女ともに6人中4人という結果になりました」(同)

 なぜ、高カカオチョコを摂取すると、大脳皮質が拡大するのか。

「はっきり言って、その理由はわかっていません。しかし、可能性として考えられるのは、BDNFが脳内で増加したことに伴い、樹状突起がより一層延びていき、結果として大脳皮質が拡大したのではないかということです。ただ、GM‐BHQが1・1ポイントアップしたことで、どれくらいの量が拡大したかと言えば、角砂糖1個分くらいです。大脳皮質をすべて広げると、新聞紙の2面分に相当すると言われていますから、わずかなものです」(同)

 さらに、腸内環境が改善されることで、脳に良い影響を及ぼしたのではないかという。

「明治と帝京大学の共同研究では、高カカオチョコを2週間摂り続けると、お通じが劇的に良くなるという結果が出ています。私どもの実験でも、GM‐BHQの上昇は女性に多く見られました。便秘がちなのは、どちらかと言うと、男性よりも女性です。極度に緊張したりすると、お腹を壊すことがあるように、脳と腸は密接に関係している。高カカオチョコによって腸内フローラが整えられたことが、大脳皮質の拡大に繋がったのかもしれません」(同)

 では、高カカオチョコは、いつ食べれば良いのだろうか。

「“チョコレート・ファースト”を勧めています。カカオには、リグニンという不溶性の食物繊維が多く含まれ、食事前に摂ることで、小腸が糖質を吸収するスピードが緩やかになるため、血糖値の急上昇が抑えられるのです」

 と話すのは、消化器内科の栗原毅医師である。

「また、カカオポリフェノールにも、血糖値を下げる効果が認められている。糖尿病になると、認知症の発症リスクは3倍に急増します。間接的に、高カカオチョコは認知症を予防していることになるわけです。さらに、ナトリウムの排出を促進するカリウムも豊富なため、高血圧にも効き目があります」

 バレンタインデーには、脳の若返りのほかにも、なにかと効果のある高カカオチョコを試してみてはいかがだろうか。

特集「内閣府が企む『バレンタインの陰謀』!? 大脳皮質を2歳若返らせた『カカオ』大量摂取の実験」より

週刊新潮 2017年2月9日号掲載

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