辛口映画評の雄・宇多丸は語る「王様のブランチは貴重」〈宇多丸×LiLiCo 第4回〉

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宇多丸「淀川長治先生や荻昌弘先生のように、LiLiCo先生に映画解説を!」 LiLiCo「先生はヤだなぁ(笑)」

 映画評論に定評があるラッパーのライムスター宇多丸さんと映画コメンテーターのLiLiCoさんの対談が『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』(新潮社)の刊行を記念し行われた。今回はその第4回目。ここまで映画評論に関する悩みを共有し、「生涯ベスト映画」を観て自分を奮い立たせてきたと語った2人。対談の最後に2人は映画を紹介し評論することの大切さを確かめ合った。

■映画評論の大事さ

LiLiCo いま媒体を持って「映画を紹介する仕事」をしている人って、すごく少ないと思うんですよ。

宇多丸 映画について地上波で語る場がないですからね。

LiLiCo 伝え方も良くない。映画のことをよく分からない芸能人を試写会に呼んで、映画のことはほとんど触れずに、その人のスキャンダルばかりが大きく取り沙汰されちゃう。以前、ジョニー・デップが来日したときに、スポーツ紙ではたった3行しか紹介されなかったの! それでワタシ「ジョニー・デップ来日って、これくらいの価値しかないの?」って聞いたんだけど、「映画について語れる人がいない」ってことだったのよ。

宇多丸 それは……どうなんだろうなぁ。

LiLiCo だからネームバリューのない新人は、よけいにメディアに出てこない。日本人にとってのスターって、あいかわらずトム・クルーズ、ジョニー・デップ、ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットでしょ?

宇多丸 メディアの質の問題ですよね。

LiLiCo あとは配給会社が買った許可が切れている問題。たとえばテレビで「LiLiCoさんの生涯ベスト3を挙げてください」とか言われること多いんですけど、ワタシの挙げた作品は許可が切れているから別のにしてください、とか言われる。ワタシのベスト3を聞いているのに!

宇多丸 それは本末転倒だなぁ。

LiLiCo 『太陽の誘い』(1998年、監督コリン・ナトリー)もないんですよ。傑作なのに! 手放すくらいならワタシが買うよ、これからも紹介していくよ!

宇多丸 公開本数が増えれば、今後そういうことも増えると思うんですよ。とくにデジタルに本格的に移行する際に、その時点でフィジカルデータがなければ、デジタル化もされなくなっていく。昔だったら名画座があって、気の利いた2本立てがあって、そこで思わぬ出会いがあったりした。そこでね、僕がLiLiCoさんにお願いしたいのが、テレビで映画をやるときに、本編の前後に解説をやること。あれはやっぱりやるべきですよ。

LiLiCo でもね、地上波で映画を放映する場合、買い取る作品の質の問題もあるから難しいですよねぇ。

宇多丸 そう考えると、やっぱり『王様のブランチ』は貴重なんですよ。いまみんながレンタルビデオや配信で自由に映画を選べて、それ自体は悪いことじゃないけど、今一度、紹介とか評論の意義をわかってもらわないと。ハッキリ言って、映画なんて孤独な体験じゃないですか。同じ映画を観ても、まったく受け取り方は違うかもしれない。孤独な体験なんだけど、同じ映画を観て、言葉を交わしあうことで豊かになる文化だと思います。映画と言葉は切り離せないハズなんです。だからフィールドやスタンスは違うけど、長年第一線で身体を張っているLiLiCoさんは本当に偉いな、と尊敬してます。淀川長治先生や荻昌弘先生のように、LiLiCo先生に映画解説を!

LiLiCo 先生はヤだなぁ(笑)。

対談まとめ・構成:加山竜司
撮影=坪田充晃(新潮社 写真部)

デイリー新潮編集部

2016年12月7日掲載

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