宇多丸「皆が面白いと思っている映画が、アナタの人生を変える一本になる可能性は低い」〈宇多丸×LiLiCo 第2回〉

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歯に衣着せぬ物言いと的確な分析で数々の作品を紹介し、映画業界内にも多くのファンを持つ宇多丸さんと映画コメンテーターのLiLiCoさん

 映画評論に定評があるラッパーのライムスター宇多丸さんと映画コメンテーターのLiLiCoさんの対談が『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』(新潮社)の刊行を記念し行われた。今回はその第2回目。自分の口癖を直したいと相談した宇多丸さんにLiLiCoさんは「自分を客観的に見なきゃダメ」と厳しい意見。今回2人からは世間を席巻する「ランキング」についての意見が飛び出した。

■映画を伝える際のテクニック

宇多丸 LiLiCoさんは『王様のブランチ』で映画を紹介するとき、伝え方で気をつけていることはありますか?

LiLiCo そうですねぇ……、「お涙頂戴の映画に見えるんですが……、そうではなくて(ヒソヒソ)、けっこうユーモアもたっぷりですよ」って紹介の仕方をしたんですよ。そうしたら後日、「LiLiCoさんが泣けるって言ってたのに全然泣けなかった」って感想をツイッターで見かけまして。

宇多丸 うわー、ありがち!

LiLiCo みんな、ちゃんと聞いているわけじゃないんですよ。「ながら見」の人もいる。「~~と思いきや」って声のトーンを落としたときに、聞こえなかったりするんですよ。だから滑舌が妙によくなっちゃったんですね。やっぱりワタシは外国人だから、誰よりも日本語がうまく伝わるような表現をしないといけない。日本人よりもハッキリしゃべるようにしてます。

宇多丸 これは難しい。みんな本当に聞きたいところしか聞かないからなぁ。真逆の伝わり方をしてたりしますもんね。

LiLiCo そうなのよ。

宇多丸 でもしゃべるほうとしては、起伏をつけたい。

やっぱりワタシは外国人だから、誰よりも日本語がうまく伝わるような表現をしないといけない。日本人よりもハッキリしゃべるようにしてます。

LiLiCo もちろん、もちろん。

宇多丸 「~~と思いきや」を小さく言いたい気持ちはすごくよくわかるし、しゃべりのテクニックとしては間違っていないと思うんですよ。そういう場合はどうしてます?

LiLiCo もう一回言うしかないですよ。「かとおもいきや……(ヒソヒソ)、かとおもいきや!ですよみなさんッ!!」(笑)

宇多丸 わはははは。

LiLiCo 「だって!」とか「それで!」とか言わないと聞いてもらえないですよ。

宇多丸 なるほどねぇ、誤解して伝わりかねない危険なところは念押しするんだ。

LiLiCo ちょっと話はズレるかもしれないけど、もうひとつ誤解されやすいのがランキングです。うちの番組では毎週、映画のランキングを公開するんですよ。あれは映画の興行収入ランキングだから、みなさんが劇場に足を運んだ結果を報告しているに過ぎないんですね。でも、あれを私のオススメだと勘違いされちゃう。「LiLiCoさんがランキングでオススメしてたから観に行きました!」とか言われると困っちゃいますね。みなさん、ランキングとワタシのオススメは別! 違いますからね!

宇多丸 それは困っちゃいますねぇ。

LiLiCo でもあのランキングって、数字(視聴率)を取るんですよ。

宇多丸 あぁ~、やっぱりみんなランキングとか星の数とかで、手っ取り早くジャッジしたいと思っているんだなぁ。だから流行している映画があると、みんなそこに行くんだよ。ああいうさぁ、どこの誰がつけたかわからないような点数の集積を見て、平均点の高いものを観に行くのって、その人にこそハマるような映画といちばん出会いにくい方法じゃないか、って思うんですけどね。おおむねみんなが面白いと思っているものが、本当にアナタの人生を変える一本になる可能性は、低いよ。

対談まとめ・構成:加山竜司
撮影=坪田充晃(新潮社 写真部)

デイリー新潮編集部

2016年12月3日掲載

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