“いざ、ビッグバンへ!”を連呼する「幸福の科学」大川隆法総裁〈なぜ「新興宗教」指導者の演説に惹きつけられるのか(1)〉藤倉善郎

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 今や信者数が1000万を超えるものまである新興宗教の世界。何故、数多の人がのめり込むのか。“吸引力”の枢要は、指導者の演説にあるという。ジャーナリストの藤倉善郎氏が“カリスマ教祖”たちの話術を分析し、聴衆を惹きつけ魅惑する秘密の“仕掛け”に迫る。

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 壇上に立った男は、少し神経質そうな様子で用意したメモに触っている。会場には彼の話を聞こうと数多の人が集まり、ざわついていた。私語が飛び交い、ざわめきはなかなか収まらない。1分経ち、2分が過ぎ、3分が経過しても、男は一言も発しようとしない。

 異変を感じた群衆は演壇の男を凝視し、その挙動に意識を集中する。一瞬、会場は水を打ったように静まり返った。彼はこの瞬間を待っていたのだ。

「国家を統合する新政権が樹立された。今や私の過去数年間の闘争は、その目的を達成した」

■聴衆を熱狂させる技術

 1933年2月10日、アドルフ・ヒトラーはベルリンのスポーツ宮殿でドイツ首相への就任演説を厳かに始めた。やがてスピーチは身振りや手振りを交え、激しさを増していく。そして2時間を超える頃、そのボルテージは最高潮に達し、絶叫へと変わっていた。

「我々自身の国家のみが、我々自身の国民のみが、頼りとなる。ドイツ国民の未来は、我々自身のうちにのみ存在するのだから」

 クライマックスで、ヒトラーは「我々自身」という言葉を繰り返し、ドイツに戦時賠償債務で高利を課す列強や、ハイパーインフレで国民に塗炭の苦しみを強いるワイマール体制を批判。国民一人ひとりの民族としての誇りに訴えかけたのである。群衆は高揚して快哉を叫び、会場は熱狂の渦で包まれた。

 その後、ナチス独裁政権が世界を悲惨極まる第2次大戦へ巻き込んでいったのはご承知の通りだ。民を扇動した力の源泉は、聴く者を煽り、狂信させる演説の妙にあったとされる。その手法や技術は、ファシズムを生んだ枢要として現在もなお研究が続けられている。

 翻って、現下の日本では、聴衆を熱狂させる技術を駆使して演説を行うのは、独裁政治家ではなく、巨大新興宗教の“カリスマ教祖”たちだ。彼らはどのようなスピーチ術で人々を魅惑し、入信へと導くのか。いかなる話術の力で数多の信者の人心を掌握しているのか。

 今や政権与党の一角を占める公明党の支持母体で、日本最大級の新興宗教団体、「創価学会」の池田大作名誉会長(88)。著名人の「霊言」と称して、その言葉を次々と披露し、政治的野心も燃やしてきた「幸福の科学」の大川隆法総裁(59)。摩訶不思議な世界観で特異な存在感を示す「ワールドメイト」の代表役員、深見東州氏(64)=本名・半田晴久=。この3人の“教祖”について、その手法と技術を考察してみよう。

■大川氏の「じらし」と「二元重複」

「いざ、ビッグバンへ! いざ、ビッグバンへ! いざ、ビッグバンへ!」

 会員数1200万人と称する宗教法人「幸福の科学」。93年12月23日、東京ドームで開催されたその祭典「エル・カンターレ聖夜祭」のクライマックスで、大川総裁はこう連呼している。

 冒頭、彼は舞台上に設置されたピラミッドの中から、その頂にある壇上に姿を現した。金の冠を被り、真っ白なガウンに大きな天使の羽がついた神々しい衣装を身にまとっている。

 演説を始めると、金色の杖を振りかざし、芝居がかった調子で、

「日本人の心の荒廃、(中略)宗教の迫害を見る限り、日本列島の一部が海面下に沈んでも驚くに値しない!」

 と、語尾を伸ばしながら話す。演説自体は、終末の到来を告げて、自分であればそれを止められるという内容だ。そして最後に、

「人類救済こそ、全人類の救済こそ、日本の、日本人の夢でなければならない」

 と語り、冒頭の、「いざ、ビッグバンへ!」の連呼で話を締めたのである。演説が終わると、天使の羽と両手を大きく広げながら、再びピラミッドの中へと姿を消したのだ。

 会員でないものからすると、何故、彼が大衆を惹きつけられるのか、疑問がないではない。一体どこに魅力が隠されているのか。パフォーマンスの世界を社会学的に研究し、政治家など著名人の演説にも詳しい、日本大学芸術学部の佐藤綾子教授(パフォーマンス学)はこう分析する。

「背中に大きな羽をつけることで、信者は物理的な大きさを人間的な大きさだと、錯覚してしまう。大きな仏像や『紅白歌合戦』での小林幸子さんの衣装を見ればわかるように、背中に巨大なものを背負って存在感を高める手法は、昔から存在するものです」

 さらにこう考察する。

「大川氏は話し始めるまでに、約50秒間をかけています。これは『じらし』の技術というもの。じらされることで、聴衆の期待感が高まるのです。そして、“いざ、ビッグバンへ!”と台詞を3回も繰り返すのは、『二元重複』という技術。連呼することで、聴衆の頭に特定の言葉を植え付けるのです。オバマ大統領が2008年の大統領選で『Yes,we can』と連呼した手法も同じです」

■「助かりたかったら、私の本を読みなさい」

 現在、大川総裁は奇抜な衣装を身にまとう機会こそなくなったが、聴衆の不安を煽る演説は変わっていない。2012年12月13日、「幸福実現党」総裁として横浜のJR桜木町駅前で行った街頭演説ではこう声を上げた。

「助かりたかったら、私の本を読みなさい! そしたら死ななくて済むから。助けてやる!」

 身振り手振りを交えて激しい口調で有権者の不安を煽るのだった。

 立正大学心理学部教授で、日本脱カルト協会(JSCPR)の代表理事でもある西田公昭氏はこう解説する。

「大川氏の演説は、カルトの教祖によく見られる“恐怖アピール”。罪と福音(救い)を同時に提示して、聴衆の意思を誘導しようとする手法を用いています。大川氏を信仰していない人にとっては、コミカルに見えるかもしれませんが、大勢の信者たちが熱心に聴いている状況下では、『これが当然なんだ』と思い込んでしまいます。『集合的無知現象』という集団心理ですね」

 幸福実現党は12年の第46回衆院選で候補者62人がすべて落選。しかし、それでも変わらず、大川総裁は、信者から神と崇められ続けている。大仰な演説の内容やかつての奇抜な衣装には、会員にとっては、カリスマ性を感じる仕掛けが張り巡らされているのである。

「特別読物 『池田大作』『大川隆法』『深見東州』 なぜ『新興宗教』指導者の演説に惹きつけられるのか――藤倉善郎(ジャーナリスト)」より

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藤倉善郎(ふじくら・よしろう)
昭和49年生まれ。大学中退後、フリーライターとなり、新興宗教、特にカルト団体に注目して取材を続ける。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』。

週刊新潮 2016年1月14日迎春増大号掲載

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