イタリア人が行列9時間! ミラノ万博金賞受賞の「日本館」が圧倒的な人気になった理由

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 10月末で閉幕したミラノ万博。閉幕にあわせ博覧会事務局が選出した「展示デザイン」部門賞で金賞を受賞した「日本館」は大変な状況になっていた。毎日、洪水のように人が押し寄せ、並ぶのが嫌いなはずのイタリア人が、最長9時間もの行列を作っていたのである。テーマは「食」だが、いったいなにが起きていたのか。

並ぶのが嫌いなはずのイタリア人が行列を作っている

■行列を作れないイタリア人が9時間待ち!

 イタリア人は行列を作れない、という声は昔から聞かれる。レジ前に並んでいても、たちまち横入りされるし、美術館やオペラのチケット売り場には、行列のかわりに黒山の人だかりができる。そんなイタリアで今、椿事が起きている。

「われわれも、イタリアの方の国民性や気質からして、こんなにお並びになるとは思いませんでした」

 と、驚きを隠さないのは、ミラノ国際博覧会、すなわち万博「日本館」の陳列区域政府代表を務める加藤辰也氏。実際、くだんの日本館、記者が訪れた際も、10月9日が最長7時間、10日が同8時間待ちで、最も混雑した日には9時間待ちを記録したという。

 なにしろ、行列好きの日本人が東京ディズニーシーやUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で記録した8時間超を上回る行列を、イタリア人たちが作り、4000平方メートルと会場内でも有数の広さの敷地が、長大な列でぐるりと取り巻かれているのである。

 もっとも、最初からこれほど賑わっていたわけではない。5月1日に開幕した当初は、訪れた協賛企業の社員によると閑古鳥が鳴いていたという。日本館の広報チーム長補佐、尾高健氏もこう振り返る。

「真夏も暑すぎましたから、最大でも2時間待ち程度でした。熱中症で倒れる方もいましたしね。それが9月以降、どんどん列が長くなったんです。朝、開門と同時に日本館めがけて走る方も多いです」

■JAの協力で日本の食文化を発信!

 それにしても、なにを目的にこれほど多くの来場者が集まるのだろうか。ミラノ万博のテーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを」。要は「食」である。加藤政府代表が語る。

「食がテーマの万博で日本が何を発信するか、農水省と経産省も交えて3年間議論を重ねました。TPP交渉の影響がおよぶ中、日本の農林水産業の競争力を高めるという課題を抱える農水省は、食文化の発信から地方創生につなげたい。クールジャパンを推進する経産省は、食に関わる伝統産業を訴えたい。多くの案を50分前後で見られるようにまとめ、展示だけでなく、あっと驚くインタラクティブ(双方向)な演出を工夫しました。展示のあとにはレストランと、各自治体や団体が食に関わる持ち込みイベントを行う広場を設置。全体にJAグループの協力は大きかったですね」

 内部は5つのエリアに別れ、プロジェクション・マッピングやスマホ連携、食玩や伝統工芸品など、アナログと最新のテクノロジーがうまく組み合わされ、テーマパークに通じる演出で、日本の食文化の多様性と繊細さがアピールされていた。

■「日本館が一番美しい」の声!

 だが、入館者は本当に満足しているのか。何人かに声をかけてみた。ミラノ市内から来て、入館をあきらめたという30代の男性は、

「5、6時間も待つなんてクレージーだ。そんなに待つなら日本へ行くよ」

 と言い、サルデーニャ島のカリアリから来たという10代の女性も、

「6時間待ちなんて人生で初めて。日本のアニメが好きだから見に来たのに、全然なくてがっかり」

 という感想だが、中部イタリアのリヴォルノから来た20代のカップルは、

「インターネット上でみんなが、“日本館が一番美しい”とコメントしているので来ました。4時間半待ちは人生で最長だけど、もともと好きだった和食がもっと好きになりました」

日本の食に関する作法や文化を伝える、万博「日本館」の壁面に展示された食材や食品の精巧な模型

 日本の食をPRできたようだ。もっとも、20代と30代のアフガニスタン人のカップルのように、

「友人たちから日本館が一番いいと言われ、待ってでも入って、待った価値もあったけど、和食はあまりおいしそうに見えないから、食べたいと思わない」

 という例もあるけれど。イタリアの最有力紙「コリエーレ・デッラ・セーラ」が8月に行った人気投票では、「万博を観たあとで訪れたい国」として日本を挙げた人が最も多かったから、総体としては成功と言えるのだろう。

 こうしてひと通り展示を観終った入館者を、レストランが待ち構えている。京懐石の美濃吉のほか、フードコートと呼ばれるエリアに、CoCo壱番屋、サガミ、京樽、人形町今半の4軒が連なっていた。フードコートは大賑わいで、座席数は160だが、1日のレジ数は2500~4000だという。

「驚異的な数字です。各店は客の需要をとらえるプロ中のプロばかりで、彼らが今後、ヨーロッパで和食を展開すると、広がりのスピードが変わってくる」

 と、加藤政府代表は期待を寄せる。一昨年の和食のユネスコ無形文化遺産登録を契機とし、ミラノ万博で弾みのついた和食ブームをどう活かせるか、それが今後の日本の課題となるだろう。

「特集 イタリア人が行列9時間! 参加140カ国中の断トツ! ミラノ万博『日本館』が圧倒的な人気になった理由」より

週刊新潮 2015年10月29日号掲載

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