国宝級「神社仏閣」に油を掛けた「カルト教祖」は在米産婦人科医

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 国宝級の神社仏閣に油を掛けるとは、多くの日本人にとって不愉快極まりない行為であることはいうまでもない。しかし、急浮上した容疑者は、意外にも米国在住の日本人産婦人科医。その上、この男、カルト教団の創始者だという。驚くべき、その正体とは――。

 ***

 イスラム国は、歴史遺産の破壊や略奪を繰り返すことで知られる。こうした行為には、非イスラム的な文化を悪とする偏狭な信仰を実践する意味合いや宣伝効果を高める狙いがある。

 翻って、今回の事件はどうか。当初は単なる悪戯かとも思われたが、こちらにも我々には全く理解不能、噴飯モノの理由があった。

 警察庁によると、全国の神社仏閣で油のような液体が掛けられる被害は、16都府県48カ所で確認されている。しかも、東大寺(奈良市)や東寺(京都市)といった世界遺産や国宝級の文化財が含まれていたため、日本人の怒りを買うのも当然であろう。

 そんな折、千葉県警が建造物損壊容疑で米国在住の医師・金山昌秀(52)の逮捕状を取った。この男が、香取神宮(千葉県香取市)の柱など数カ所に油を撒いたというのだ。香取神宮の担当者が説明する。

「3月26日の朝、うちの職員が国の重要文化財に指定されている楼門や狛犬、そのほか、賽銭箱など、計十数カ所に油のようなシミが付いているのを発見しました。甘い匂いがしたそうだが、どういう油かははっきりしません。修復は文化庁の指示に従って行う予定です。しかし、油を拭き取ることで、漆が剥がれてしまう恐れもあり、当分の間、そのままの状態にしておくことになりそうです」

 防犯カメラには、金山と似た男が液体を撒く仕草をする様子が映っているが、

「東大寺や東寺でも似た男が映っていた。警察は、香取神宮以外の事件にも金山が関与しているとみて捜査を進めています」(全国紙社会部記者)

 特定の神社や寺を狙っているならばともかく、西日本から東日本まで広範囲の犯行である。犯人の特定には時間が掛るとみられた。そんな捜査に大きな進展が見られたのは、ある通報があったからだ。

 カルト教団について情報収集をしている、アッセンブリー京都教会の村上密牧師によれば、

「油の撒布が問題になる中、キリスト教の教会が被害に遭っていないことに気付きました。そこで、こんなことをやるのはキリスト教系のカルト的なグループのはず、悪霊にまつわる活動を行っているIMM(インターナショナル・マーケットプレイス・ミニストリー)が怪しい、という考えに至った。その後、IMMの内情に詳しい人に連絡。ある韓国系のキリスト教団のHPに、金山が神社仏閣に油を撒いている映像がアップされているとの情報を掴んだのです」

 村上牧師は、その映像を入手。5月22日、京都府警南署に提出したという。

 IMMは、金山によって2013年5月に設立されたキリスト教系の教団だ。

 まず、金山医師の経歴について触れておこう。

 1962年9月、東京・深川で在日韓国人の両親の下に生れた。名門の駒場東邦高校へ進学。その後、帰化し、17歳の時には韓国系の教団で洗礼を受けたという。

 金山家を知る関係者が証言する。

「父親は、医療用の電気毛布とか床暖房を作ったりする発明家でした。会社は小さかったものの、特許をたくさん持っていたらしく、近所ではそこそこ裕福だと言われていました。母親は『主人はハワイに別荘を持っていて、1年の半分はそっちで過ごしている』なんて話していましたしね」

■震災は神の警告

 金山医師は、3人きょうだい。姉と弟がいる。高校卒業後は米国のウィスコンシン医科大学へ入学。医師免許を取得し、現在、「ニューヨーク子宮内膜症センター」の所長として勤務している。

「現地では有名な産婦人科医で、医師としての腕には目を見張るものがある。子宮内膜症だけでなく、不妊治療でも数多くの夫婦を救ってきた」(知人)

 米国を拠点に活躍する日本人医師といえば、聞こえはいいが、

「彼は、2011年3月の東日本大震災を機に日本で宗教活動を行うようになりました」

 と話すのは、日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団小岩栄光キリスト教会の吉山宏主任牧師である。

「11年10月頃、うちの教会に彼が来て説教してもらった。その頃から付き合うようになった。初めて会った時は、気さくな人だと思いました。全国各地の教会を回るなど、日本のためを思う熱心なキリスト教徒だと思っていたのですが」

 ただ、日本に来るようになった経緯を聞くと、一般の人はギョッとする。吉山牧師が続ける。

「その話を彼から直接聞いたことがありますが、概要を説明するとこうです。震災の直前、クリニックのスタッフと共に祈りを捧げていると、『やがて日本で大震災が起きる。直ぐに日本へ行きなさい』との神のお告げがあった。で、3月11日の震災が起こるまさに1、2分前、彼の乗った飛行機は成田空港で着陸態勢に入ったといいます」

 金山医師は、日本の教会で「震災は日本に対する神の警告。正しい神を信じなくてはならない」と語っていたという。ちなみに、離婚歴があって、

「彼はニューヨークのプロテスタント系の教会に通っていたことがあり、そこで米国人と結婚式をあげた。ただ、金山さん曰く、結婚して5年程経った時、彼女の頭に蛇のようなものが巻き付いているのが見えたのだとか。そこで、妻に『お前は、本当は何者か』と問い詰めると、『私はフリーメーソンのスパイなんです』と告白され、離婚することにしたそうです」(先の知人)

 医師としては、こんなエピソードも披露していた。

「ある時、難病に侵され、あらゆる医師から見放された患者の手術をやることになった。で、いざ、手術を始めるとキリストが囁く声が聞こえ、それに従って手術を進めた。すると、手術は奇跡的に成功、患者も助かったというのです」(吉山牧師)

 IMMを立ち上げたのも「神のお告げ」だという。

 マーケットプレイス・ミニストリー(MM)とは、一部のキリスト教徒には、前からある考え方である。それぞれの信徒の置かれた立場、職場や家庭、住む場所などで神に仕え、伝道しようというものだ。金山医師は、それを国際的、即ち、インターナショナルに行おうとしたようだ。

「IMMの設立当初は、我々も問題ないだろうと思っていたんですけどね。しかし、やがて、彼の中にほかの教会の信徒を引き抜いて、IMMに縛り付けようとする傾向が見え始めたのです」(同)

 IMMには、最大250人程度の信徒がいたという。元信徒が補足する。

「金山は、周りの人の意見を聞かず、自分こそが神の命を受けていると思い込んでいた。例えば、彼の下には様々な悩みを持った人が来るわけですが、そういう人にも神の声だと言って高圧的に『お前はサタンだ』『スパイだ』と罵っていました。カルト化の傾向がみられ、私自身付いていけなくなりました」

■オリーブオイルで…

 それにしても、なぜ、神社仏閣に油を撒いたのか。

 金山医師は、13年7月に行われたIMMの東京決起大会で、九州のある洞窟の写真をスライドに映し出し、

「この場所で大虐殺があった。(中略)ここに呪いがある。(中略)私はここに行き『日本人の先祖が犯した罪を、主よ許してください』と罪の悔い改めの儀式をした。油を注ぎ、この場所を清めた」

 と語っている。

 教団内では、「祈りの儀式」と称し、「ヒソップの油」という液体を信者の額に塗っていたが、

「金山さんは震災後、日本全国を説教して回った。その一環として、日本各地の山に登り、山の頂上にある祠(ほこら)などにオリーブオイルで小さな十字架を描き、清めの祈りをしていました」

 とは、先の吉山牧師。

「聖書の中でオリーブオイルは、神の霊が働くとされています。病人が出ると、牧師や長老を招いて、オリーブオイルを注いでもらうことがある。日本でいえば、“清めの塩”や“盛り塩”みたいなものでしょうか。確か、立山や石鎚山などに登って、オリーブオイルで祠に十字架を描き、写真撮影していた。その写真を見せながら説教していました」

 まさかこんなことになるとは、夢にも思わなかったという。先の村上牧師の見方はこうだ。

「金山は、悪霊を退散させた後に油を撒いて、その場所を清めているつもり。そうすれば、今度はそこに天使が降りてきて悪霊が再び戻ることはないと考えているようです」

 先の元信徒は、

「特に反日感情があって、油を撒いていたわけではなかった。むしろ、本気で日本を救いたいと思っていた感じでしたね。金山自身、油を撒く行為を信者に推奨することはありませんでしたが、信者の中には、そういう行為をカッコいい、正義だと妄信し、本気で一緒になって油を撒きに行きそうな者はいました」

 都内に住む金山医師の姉に話を聞こうとしたが、

「昌秀の行動については何も知りません。私もびっくりしているところです」

 と、言うのみである。

 だが、金山を知る関係者が言う。

「数年前、ご両親が亡くなった後、3きょうだいは遺産相続で揉めてね。周囲からも『まずは、きょうだい、家族など自分の身の回りを顧みるべき』と忠告されていた。しかし、彼は全く聞く耳を持とうとしませんでした。お姉さんも、彼がIMMを立ち上げた頃から、こういうことは止めてもらいたいと心配していた。新聞で彼に逮捕状が出たことを知って『やっぱり、こうなってしまったか』と泣いていました」

 金山医師こそ罪深き人である。捜査員の前でも「日本の神社仏閣は呪われている」なんて言い張るのだろうか。

週刊新潮 2015年6月11日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。