「イスラム国と話し合え」という「朝日新聞」に『報道ステーション』そして“文化人”

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 世界を震撼させたパリの同時多発テロ。改めてISの本質を認識した各国は、より強硬策を取るべく、結び付きを強めている。しかし、日本の言論空間はやはり異質。なぜかISに妙な理解を示す“文化人”が幅を利かせているのだ。曰く、「イスラム国と話し合え」と。

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 外交問題を論じる際、しばしば持ち出されるのがイソップ童話の『北風と太陽』である。曰く、強硬策は憎しみを生むだけで対立は解消しない。対話と交渉こそが外交の王道だ――。

 しかし、この寓話には続きがある、という話をご存じだろうか。旅人の外套を脱がせる勝負に太陽が勝った後、今度は帽子を脱がせる勝負が始まった。太陽は再び燦々と照らしたものの、逆に旅人は日差しを避けて帽子を深くかぶった。が、北風が力いっぱい吹くと、外套と違って帽子は簡単に飛ぶ。つまり、実はこの話の教訓は、物事には相手や場面に応じたやり方があり、それを適切に選べ、というものだと言っているのだ。

 このもっともらしい話、イソップの原話には出てこない。後世に何者かがまことしやかに創作したものであろうが、それが説得力を持ってしまうほど、冒頭の『北風と太陽』の寓話は政治的に利用されている節があるというワケである。

■金太郎飴のような“声”

 パリがイスラム国による同時多発テロに見舞われたのは、日本時間の11月14日朝のこと。以来、あらゆるメディアが、その“今後”について論じている。

 中でも、異彩を放ったのは、「朝日新聞」である。朝日と言えば、自称、日本の「リーディングニュースペーパー」。その読者はむろん、成熟した知性をお持ちのはずだが、読者投稿欄『声』には、同じような“答え”だけが金太郎飴のように掲載され続けている。

〈空爆は多くの市民が犠牲になった原爆投下に通じる理不尽さを感じる。原点に戻り、話し合いのテーブルに着く努力をしてほしい〉(11月20日=67歳の経営コンサルタント)

〈この問題を解決するのに必要なのは力ではなく、対話によってテロという行為が間違いだと認めさせることだと考えます〉(11月21日=14歳の中学生)

 などなどだ。

■“対策の対象なのだろうか”

 こうした「声」と同一歩調を取るのは、和装で知られる、法政大学の田中優子総長である。11月15日、TBS系『サンデーモーニング』に出演し、

〈テロ対策という言葉があるんですが、これって対策の対象なのだろうかと思うんですね。本当は解決を目指さなきゃならない〉

〈本当に対話を進めるためにはどうしたらいいか、というようなことが本当の解決に繋がる〉

〈国単位で報復を考えるというのは、テロに対して本当に有効なのだろうかと。世界として暴力が無効になる社会とは何かということを考える時にきていると思うんですよ〉

 と述べたのだ。今年1月、“対話”のために現地へ赴き、惨殺されてしまった後藤健二さんは同大出身。そのトップが今さら「考える」とは何と寛容な人か、と吃驚だが、この後には「真打」が控えている。

■ISの宣伝映像を流す『報ステ』

 テレビ朝日系『報道ステーション』。テロ後、初めての放送となった11月16日、古舘伊知郎キャスターはこう言った。

〈この残忍なテロはとんでもないことは当然ですけども、一方でですね、有志連合の、アメリカの誤爆によって無辜の民が殺される。結婚式の車列にドローンによって無人機から爆弾が投下されて、皆殺しの目に遭う。これも反対側から見るとテロですよね〉

 横で「全くその通りなんですよ」と頷くのは、ゲストコメンテーターの内藤正典・同志社大大学院教授。

 続いてフランスのオランド大統領が「これは戦争だ」と述べた翌日の17日には、

〈(ISとの)対話を避けている場合ではないと思います。これを戦争だとするならば、激化させたなら悲劇しかない。何とか軟着陸を、という対話を模索しなければならない緊迫状態にあると思うんです〉

 すると、これにも横の立野純二・朝日新聞論説副主幹が連係プレーのように頷いてみせる。

 圧巻は19日である。この日の『報ステ』は、ISの美点ばかりが描かれた、イスラム国の宣伝映像を「解析のため」に5分間放映。続いて、アメリカの誤爆で家族を失い、自らも怪我を負ったパキスタン少女のインタビューを流す。そして別のコーナーでは、「安保関連法案」が成立した2カ月後の国会前デモの様子を扱い、

「めんどくさかろうがなんだろうが、知っておかないと世界の糸口を見つけることは出来ませんよね」

 これらをマジメに見た大半の視聴者の心に映った「世界」の像は、きっとISの洗練された立ち居振る舞いと、アメリカ、そして、それに追随する日本政府の非道さや愚かさ、といったところであったであろう。

「特集 内心無理とわかっていて 『イスラム国と話し合え』という綺麗事文化人」

週刊新潮 2015年12月3日号掲載

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