「他人の表情から感情を読み取れる」と考えるのは間違いだった/それ、人間アレルギーが原因です(2)

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 あなたは、表情を見ただけで、その人の感情がわかるだろうか。

 実は、さまざまな表情を浮かべた写真を見せて、表情が表している感情を判定する検査を行うと、意外なほど多くの人が正確に読み取れないことが近年の研究でわかってきた。

「冷たい表情をしていた」とか、「怒っているようだった」といった観察の結果は、まるで事実のように考えられがちだ。しかし、そこには多分に推測が含まれる。そして、それは人間関係のトラブルへと発展しかねないのである。

■みんなの前で注意されて……

 会社員の杏夏さん(仮名)は、最近、上司の態度にいらだっている。直接のきっかけは、仕事で注意されたことだ。ささいなミスなのに、みんなの前で言われたので、ちょっとショックだった。以来、自分にばかり厳しい目を向けられているように感じ、また何か言われるのではないかと身構えるようになった。以前は優しくて頼りになる上司と思っていたのだが、新人の女性が入ってきた頃から、その人にばかり親切にしているようだ。ところが、自分のほうを見るときには、難しい顔をして、面倒くさそうにする。必要ないので早く辞めてほしいのか。「私に辞めてほしいのなら、はっきり言ってください」と、よほど言ってやりたいと思う。

■憶測を事実と思いこむことをやめよう

 臨床経験27年のベテラン精神科医で、『
人間アレルギー なぜ「あの人」を嫌いになるのか
』(新潮社刊)の著者、岡田尊司さんは、まず、事実と推測を区分けすべきとアドバイスする。

「人間の否定的な考えの大部分は事実ではなく、事実から飛躍した推測です。とくに人間アレルギーの人は、ささいなサインや兆候をすべて悪いほうに解釈しやすい。そして、事実とはかけ離れた思い込みを作り上げてしまうのです」

 杏夏さんの場合、事実の部分は2つ。仕事上のミスを上司に一度注意されたことと、新人社員が最近入ってきたことだ。自分にばかり厳しい目を向けているとか、新人社員ばかりが可愛がられて、自分に辞めてもらいたいと思っているといった部分は、彼女の推測である。

 そうはいっても、いったん思い込んでしまったら、事実と推測を分けて考えるのは難しいのではないだろうか。

「そういう場合には、その推測が、どれだけ客観的に妥当性をもつかを検討してみることが役に立ちます。杏夏さんの場合もそう。上司が他の人にも注意することはないのか。自分が新人の頃はあまり親切にしてもらえなかったのか。彼女が今の仕事を辞めたら、他の人が簡単に引き継げるか。そういったことを問い直してみるといいのでは」(岡田さん)

 冒頭に記したように、表情や態度や雰囲気は、ただでさえ“事実”と錯覚しやすい。表情という比較的わかりやすそうなものでも当てにならないのだから、態度や雰囲気に基づく推測はかなりあやしいと思った方がいい。事実と推測を分離したうえで、推測の部分については、「事実かどうかわからない。悪く考えて、悩むのはやめておこう」と、繰り返し自分に言い聞かせることだ。

デイリー新潮編集部

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