石川佳純を破った16歳、平野美宇が育った“数学医学”家庭

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平野美宇(本人のTwitterより)

 微に入り細に入り、学問も勝負事も「組み立て」が肝心である。卓球の全日本選手権女子シングルスで16歳の平野美宇が、4連覇をかけた石川佳純を撃破した。その大胆なゲームメークは、あるいは祖父から父へと続く“アカデミズムの血筋”のなせる業か――。

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 1月22日の決勝で、平野は日本のエース・石川を4―2と圧倒。史上最年少となる16歳9カ月での優勝を果たしたのである。

 これまでは、もっぱらリオ五輪に出場した同年の伊藤美誠とのダブルス、“みうみま”で知られており、

「伊藤が積極的な強打を放ち、平野は、どちらかと言えば繋いでチャンスメークする卓球でした」

 とは、卓球女子日本代表の近藤欽司元監督。が、

「今大会の平野は相手のミスを待つのではなく、自ら取りに行っていました。卓球台に近く、ボールが頂点に達する前の“ライジング”で、打点の早い球が打てていた。当然リスクも高まりますが、良い方向に展開していきました」

 敗れた女王をして“150%の力が出ている”と言わしめた新星は、卓球尽くしの家に生まれ育った。スポーツ紙デスクが解説する。

「両親はともに筑波大の卓球部出身。平野は3歳5カ月で卓球を始め、母親が地元の山梨で開いている卓球教室でトレーニングを重ねてきました。2人の妹は、ともに選手。さらに祖父も、国体の監督や大学の卓球部で顧問を務めてきました」

 加えて、類稀なるドクター一家でもあり、

「その祖父・光昭さんは山梨医科大学名誉教授。数理科学が専門で、大学入試システムの電算化プログラムを開発し、昨年春には瑞宝中綬章を受章しました。また医学博士の父・光正さんは内科医で、現在は甲府市内の病院に勤務しています」(同)

 まさしくハイスペックファミリーなのだ。

 祖父の光昭さんに聞くと、

「私は今回、美宇の4、5回戦を会場で観戦しまして、『これは石川選手に勝てるかも』と思いました。なぜなら、バックハンドの威力が驚異的だったからです」

 と、まずは専門家らしい分析を。

「通常は相手の球に当てて返すだけの“ブロック”になりがちで、その場合、バックで繋いで甘い球がきたらフォアで決めるという戦法になります。ところが美宇は、バックなのにフォア並みの力で腕を振り切って、決め球を打っていたのです」

■ラリーの数が

 かつて幼少期、祖父の家も練習場だったという。

「美宇は2歳の時、一家で静岡から私の家に越してきて、小学5年生まで一緒に暮らしていました。うちの2階には卓球ルームがあり、そこで私があの子に教えていたのです。当時、ラリーが続いた回数をノートにつけていましたが、少しずつ数が大きくなっていったのを懐かしく思い出します」

 祖父から父へと連なる理数系的思考は、では彼女の卓球に生かされているのだろうか。光昭さんは、

「小学校の途中までは、美宇の成績は良かったと思いますが、高学年になると遠征も多くなり、勉強に身が入らなかったのでは」

 そう振り返りつつ、

「私や息子はともかく、理系が卓球に向いているかといえば……大学の卓球でも、活躍しているのは文系学部の人が多いですね」

 当の平野は小学5年生の頃“体育が得意で算数は嫌い”と話していた。祖父の理論に倣えば、好ましい傾向なのかもしれない。

ワイド特集「大寒のただ中にある身の廻り」より

週刊新潮 2017年2月2日号掲載

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