【詐欺師の素顔】「戦闘機パイロットのクヒオ大佐」を信じさせた結婚詐欺師の道化人生

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「自」「黒」「赤」「青」という具合に、詐欺の種類は色分けされる。恋愛感情につけこんで金銭を騙し取る手法は「赤詐欺」で、1970年代から自らを米軍所属の「戦闘機パイロットのクヒオ大佐」と称した結婚詐欺師が世間を賑わせた。独特の舞台設定と小道具を武器に、複数の女性を弄んだ男の道化人生――。

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「私は横田基地の大佐で、イギリス情報部から米海軍に派遣されている戦闘機のパイロットです。名前は、ジョナ・クヒオと言います」

 身長160センチと小柄ながら、髪の毛は金色に染め上げられ、鼻は西洋人に似るように整形手術を施し異様なまでに高い。米海軍の制服を着込み、知り合った未婚女性たちを次々と偽りの世界に誘ったという。当時、取材に当たったベテラン記者が振り返る。

「彼は“英国のエリザベス女王は双子で、その妹が自分の母。父親はハワイのカメハメハ大王の末裔です”と近づいて、高級レストランに招待するなどわずか2~3度目のデートで“結婚してくれませんか?”“財産は500億円あって、結婚すれば英国王室から3億円の祝い金が出る”と囁くのです。その際、軍服姿で米軍の戦闘機に乗り込む姿を撮影した写真などを見せて相手を信用させ、“軍の秘密任務に就いているが、資金が120万円足りない。必ず返すから、何とか都合をつけてもらえないか“などと、言葉巧みに金を無心するわけです」

 被害に遭った女性は25歳から51歳までと様々で、事件化しているだけでも7人に上る。それぞれ数百万円、多い時で4500万円も騙し取られたケースもあり、被害総額は1億円に達すると見られている。

 クヒオ大佐が最後に逮捕されたのは、99年の事件だった。この時、取材に当たったジャーナリストの高山数生氏が解説する。

「被害者は33歳の女性で、クヒオ大佐は“500億円の財産を受け継ぐために2年以内に結婚しなくてはならない”と迫った。そして、金を要求する段になると電話で“コソボで米軍の現金輸送車を誤爆してしまった。補償の関係で軍の金に手をつけてしまったので、何とか工面して欲しい”と懇願して来たというのです」

 後から分かったところでは、クヒオ大佐が戦闘機に搭乗している写真は、ミリタリーショップで購入したヘルメットやフライトスーツを着込んで展示物に乗り込んだ姿を写したもの。また、電話の際は信憑性を高めるために、航空機の爆音を録音したテープを近くで再生していた。さらに、

「わざわざ“営舎からかけている”と前置きした上で、“ケネディJr.が亡くなったんだが、自分は彼から馬をもらっている。葬儀に出る必要があるので、金を用意してくれ”と頼んできたこともあったそうです」

 荒唐無稽の一言。が、コソボ紛争もケネディJr.の飛行機事故も、この時期に起きた実際の出来事である。どうやら、クヒオ大佐は新聞を眺めてネタ作りに励んでいたようだ。こんな男に騙されるのも不思議に思えるが、とまれ、女性にすれば心も身体も許した仲。求められるまま、ずるずる600万円を渡したのである。

■不思議な魅力

 クヒオ大佐のウソは必ずバレる。なぜなら約束した結婚の日が近づくと、彼は決まって姿を消すからだ。この時も、急に連絡が取れなくなって騙されたことに気づいた女性は、ほどなく警視庁に被害届を出した。高山氏が続ける。

「99年の9月30日、クヒオ大佐は詐欺容疑で逮捕されました。女性が無心されていた金が用意できたと、彼を自宅に呼び出したのです。予め警察にも伝えてあり、何も知らないクヒオ大佐が午後1時頃に姿を現すや、すかさず警察が踏み込んだわけですが、その際、刑事の1人が“警察だ。どういうことか分かるな”と言うと、“あ、分かりました。抵抗しませんから”と素直に手錠をかけられた。しおらしく連行されるクヒオ大佐に、女性が“どんな思いでお金を作ったと思ってるの!”と罵声を浴びせても無反応。まさに、『クヒオ大佐劇場』に幕が下りた瞬間でした」

 これがクヒオ大佐の10度目の逮捕で、懲役5年の実刑判決が言い渡された。過去のクヒオ大佐の公判をつぶさに取材し、09年に公開された映画『クヒオ大佐』の原作を書いた作家の吉田和正氏も苦笑いで述懐する。

「クヒオ大佐には、不思議な魅力があるんですよ。決して許されることではありませんが、彼の詐欺は悪質さより滑稽さが先に立つ。公判では常に、“受け取った金はセックスの対価”と主張してきました。彼にしてみれば騙したのではなく、一緒に『クヒオ大佐ごっこ』を楽しんだだけ。お金もその過程で貰ったものだというわけです。罪悪感など毛ほどもなかったでしょう」

 実は、北海道出身の生粋の日本人。父親は国鉄職員だった。道化に徹した人生も、存命なら古希を越えて3年のはずである。

「ワイド特集 週刊新潮3000号を彩った華麗で卑怯な詐欺師たちの顔」より

週刊新潮 2015年8月6日通巻3000号記念特大号掲載

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