古今東西の偉人に共通するもの/『世界史の叡智』

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 本書は、『産経新聞』に毎週掲載されたコラム五一回分をまとめたもので、著者は古代ローマ史の専門家である。
 連載第一回目で古代ローマの保守派政治家、大カトーを取り上げた著者は、ローマ人が「父祖の遺風」(mosmaiorum)と呼んだ規範を紹介し、「若者に『父祖の遺風』を例示し尊重させること、それが教育者のなすべき務めであった」と書く。そして、「『父祖の遺風』を奉じたローマ人のひそみにならい、古今東西の出来事に視野を広げながら、人の生き方を学ぶこと」が本書の願いであると宣言する。著者は、前一四世紀の古代エジプトで有史以来最初の一神教信仰を取り入れたファラオ、アクエンアテン王から、戦後日本を代表する国民的スター、石原裕次郎まで、宏大な世界史の流れの中から五一人の人物を選び出し、その生涯と事績を簡潔にたどっていく。権力者、政治家、哲学者、宗教者、芸術家、企業家など幅広いジャンルから選ばれた五一人の多くは日本人にも親しみのある著名人だが、耳慣れない人物も登場する。例えば、北インドの大半を統一し、唐の玄奘を厚遇した古代インドの王、ハルシャ・ヴァルダナ、一二世紀、十字軍と戦いながらシリアを統一し、大地震後の復興に情熱を注いだイスラムの青年君主、ヌール・アッディーン、一三世紀、外交使節として欧州の情報を東方に持ち帰ったネストリウス派キリスト教僧侶、バール・サウマーなど。また、ビザンツ帝国の女傑皇妃テオドラ、フランス革命で女性の権利を主張したオランプ・ド・グージュ、娼館に身売りされた不遇を克服し、婦人運動の中で母性尊重を訴えた山田わか、といった個性豊かな女性たちも顔を揃えている。
 平穏無事な人生を全うした者もいれば、非望を抱いて若くして斃れた者もいる。彼らに共通しているものは何か? それは、自らの運命に誠実に向き合い、情熱をもって人生に臨む真摯な態度であるように思える。これは、著者が現代の日本人に求める資質でもあるのだろう。

[評者]山村杳樹(ライター)

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