“名画座の閉館”相次ぐなか東京のど真ん中に「ミニシアター」が誕生 「岩波ホール」「ギンレイホール」の“遺伝子”を受け継ぐ
館名「シネマリス」の意味は……
岩波ホールは、1968年に開館した。当初は多目的ホールだったが、1974年から良質な映画を発掘し、上映する「エキプ・ド・シネマ」運動の拠点となり、映画専用ホールとなった。日本で初めて「完全入れ替え制」「定員制」(立ち見不可)を導入した映画館である。「惑星ソラリス」(アンドレイ・タルコフスキー監督、1972)、「旅芸人の記録」(テオ・アンゲロプロス監督、1975)、「八月の鯨」(リンゼイ・アンダーソン監督、1987)などの名作を発掘、上映しつづけてきた。1作を最低1か月上映することでも知られ、「宋家の三姉妹」(メイベル・チャン監督、1997)は半年のロングランとなった。
「いま研究中ですが、ぜひ、岩波ホールの“精神”を受け継ぐような特集上映を組みたいと思っています。また、いまは致し方ないとはいえ、映画の上映期間がどんどん短くなっている。よほどのヒット作品でないかぎり、すぐに上映が終わってしまう。ギンレイは2本立てで、2週間、上映していました。岩波ホールのような1か月上映は無理としても、サブスク上映では、2週間上映を目指したいです」(藤永さん)
ちなみに館名「シネマリス」は、稲田支配人の命名だが、
「動物の名前が入っていると可愛いと思ったんです。キャラクターも作れますし。そこで〈シネマ〉+〈リス〉にしました。ロゴマークも、リスの絵です。」
〈シネマリス〉は、同時に、〈シネ〉+〈マリス〉とも読める。〈マリス〉は古代イタリアの神話で農耕の神様で、また、ラテン語だと〈海の〉。〈ステラ・マリス〉=〈海の星〉、これは聖母マリアを意味する。
実は「シネマリス」は、この8月に開業する予定で、クラウドファンディングもすでに目標額をクリアしていた(8月15日まで実施中)。しかし、主にトビラ・シャッター関係の設計・工事に予想以上の時間がかかり、いまのところ、10月以降の秋に延期になった。
今回、建設予定地の内部も見学させてもらったが、とてもゆったりした豪華な椅子も、一部、届いていた。
「昨年3月に閉館した、仙台〈チネ・ラヴィータ〉さんからいただいた椅子もあります」(藤永さん)
岩波ホールなきあと、神保町シアター1館だった神保町に、新しい映画館が誕生する。ギンレイホール、岩波ホール、チネ・ラヴィータ……多くのミニシアターの“遺伝子”を受け継ぎながら、神保町「シネマリス〉は、開館の日を待っている。
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