「16歳のアイドルを自殺に追い込んだパワハラ社長」という“ウソ”を弁護士に流布された男性の「せめてもの願い」
弁護士たちを訴え返して勝訴
だが、佐々木さんは耐えた。家族や従業員の生活を守るためにも不当な風評被害を打ち砕かなくてはならなかった。会社の売り上げが激減する中、弁護士費用や裁判のため東京まで通う交通費が重くのしかかったが、長い裁判闘争を戦い抜いた。そして勝訴した。
遺族側からは2件の訴訟を起こされたが、いずれの裁判でもパワハラも過重労働もなかったと認定された。佐々木さん側から遺族と弁護団5人を名誉毀損で訴え返した裁判でも勝訴し、550万円の賠償金が支払われた。気づけば6年あまりの月日が過ぎていた。
しかし風評被害は今なお回復しないままだ。イベント業はほぼ閉業。売上は3分の1に減った。この間従業員は全ていなくなり、今は一人で会社を回している。裁判で勝訴したことが伝えられ始めた3年ほど前、久しぶりにイベント企画の仕事が入ったが、翌年にはすぐ打ち切られることもあった。
「担当者は『申し訳ない。本当はお願いしたいんですが内部で反対の声があって…』と口を濁すのです。ああ、いくら裁判で勝っても一度植え付けられたパワハラ社長のイメージは拭えないのだと気づきました」
3月18日、東京弁護士会から、佐藤大和弁護士と望月宣武弁護士に対して懲戒請求していた結果を知らされた。懲戒委員会は、記者会見が名誉毀損に当たるとし、両弁護士について「記者会見の内容について責任を負うべき立場にある」として「戒告」処分を出した。両弁護士が20代女性から陳述書を得ようと説得した際に話した言動についても、「弁護士の証拠収集活動として非難されるべきもの」として、弁護士としての品位を失うべき非行と断じた。
懲戒処分が出たことにはほっとしたが、わだかまりが解けたわけではない。
「弁護団の中には、いまだにタレント弁護士気取りでテレビに出演している人もいます。賠償金は支払われましたが、未だ謝罪は受けていません。反省もしていないでしょう。彼らが正義面して芸能人の権利を語ることに納得できない思いがある」
弁護士やマスコミに訴えたいこと
失った時間やお金、信頼を完全に取り返すことは諦めている。だが、前を向いて歩きたい。そのためにも続けようと思っていることが、自分の経験を語り続け、社会に知ってもらうことだ。
「弁護士をしている人、これから弁護士になろうとしている人に知ってほしい。一方を擁護するのが仕事なのはわかります。ただ弁護士は社会正義を守るべき立場の人のはずです。もう一方を傷つけるウソを自ら拡散していいわけがありません。マスコミにも同じことが言いたい。自分たちの影響力をよく考えて仕事をしてほしい。名もなき人間の営みをいとも簡単に壊せる力を持っていることをわかってほしい」
二度と自分と同じような被害者が生まれないこと。それがせめてもの願いだと語る。
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「デイリー新潮」が佐藤、望月両弁護士に、東京弁護士会が懲戒処分を出したことについてコメントを求めると、望月氏は「不当な処分であり、争うつもりです」と回答。
佐藤氏からは下記の文章が送られてきた。
〈エンターテインメント分野における児童を含む未成年者の働き手は、労働者として保護すべきであり、本件における労働者性を否定した判決については、年少者保護規制等の観点を含めて、学者や実務家から様々な批判を受けている(参照)https://era-japan.org/archives/911)。
昨年、国連人権理事会の作業部会の報告書においても「アイドル業界においても、作業部会は若いタレントがプロデューサー、広告主、およびエージェントのすべての厳しい要求に従うことを義務付ける契約に強制的にサインさせられ、遵守しなかった場合には高額な罰金が課されるという状況を聞きました。」等とアイドル業界における深刻な問題について指摘を受けたこと、また昨年末には、公正取引委員会が「音楽・放送番組等の分野の実演家と芸能事務所との取引等に関する実態調査報告書」を公表し、同報告書では、芸能事務所は実演家に対して優越的地位に立つ蓋然性が高いとし、芸能事務所の言動をも問題視したこと等を踏まえて、今後も引き続き、我が弁護士人生の全てを賭けて、様々な圧力に屈することなく、我が国のエンターテインメント分野における人権問題を解決するために尽力しつつ、エンターテインメント業界の実演家の働く環境、取引条件等の是正に全力で取り組んでまいりたい〉
東京弁護士会が2弁護士に懲戒処分を下した判断の詳細については、前編【“紀州のドンファン”妻の元代理人「イケメン弁護士」が弁護士会から懲戒処分を受けていた「弁護士としての品位を失うべき非行」とは?】で伝えている。
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