千葉大生が女子中学生を2年間監禁… ムショ仲間が語る「寺内樺風」受刑者の異常性

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 当時中学1年の女子生徒を誘拐、2年間監禁した元千葉大生・寺内樺風(かぶ)受刑者(逮捕当時23)の事件をご記憶だろうか。2016年3月、東京都・中野区の監禁部屋を抜け出した女子生徒が同区で保護されたことで、事件は発覚。全国に指名手配された寺内受刑者は、少女が保護された翌日に静岡県伊東市で身柄を確保された。自殺未遂を図って、通りかかった新聞配達員を呼び止め「死のうと思ったが死に切れなかった、警察を呼んでほしい」と助けを求めたのだ。

 事件発覚から5年。そんな寺内受刑者の近況を知るのが、関東地方のある刑務所で彼と寝起きを共にしていたA氏だ。

「川越から来た奴はだいたい運動が大好きになってて、運動会やソフトボール大会もすごい張り切ってやるんですけど、彼はそういう感じじゃなかったですね」

 “川越”とは、川越少年刑務所のことを指す。通常、刑事裁判で実刑判決を言い渡された被告人たちは、その刑が確定すると収監される。だが、少年や初犯、性犯罪など、一部の受刑者はまず「調査センター」に指定されている刑務所に送られることになっており、ここで矯正にあたっての処遇指標が指定され、改めて各地の刑務所に移送される。関東で性犯罪を犯した者たちの「調査センター」は川越少年刑務所である。いわく「強制性交で逮捕された新井浩文も川越に落ちます。期間は決まっていないんですが、そこで訓練みたいなものを受けてくるんです」(A氏)という。

「刑務所では、刑務官に対する返事とか、独特の行動所作があるんですが、そういったものを川越で仕込まれます。動きとか返事を見てると、こいつ受けてきたんだなというのがすぐにわかります」

 だが、2019年6月に川越からやってきた寺内受刑者には“仕込まれた”素振りを感じさせなかったというのだ。口にするのは、彼の“頭の良さ”が思い浮かぶエピソードの数々だ。

「彼は完全な天才肌でした。コンピューターの知識がありすぎるんで寺内くんにはパソコンは触らせられないということになった。結局、パソコンを使わない工場(※刑務作業)に送られましたね」

 もともと寺内受刑者は、千葉大学工学部に通いデータ解析を学んでいた。監禁前にはカナダに留学し自家用機の操縦資格を取得してもいる。優秀な学生としての顔を持ちながら女子生徒の監禁を続けていたのだ。逮捕後、未成年者誘拐や監禁致傷などの罪で起訴されたが、一審・さいたま地裁の判決公判で「(自分は)16歳です」、「森の妖精でございます」などといった不規則発言を繰り返し、判決言い渡しが延期になるなどの番狂わせも起こした。のちに懲役9年の判決が言い渡されたが、被告側・検察側ともに控訴。高裁では「一審は心理的拘束の悪質性を適切に評価していない」と一審破棄のうえ懲役12年が言い渡され、刑が確定した。

「一番すごいと思う人は麻原彰晃」

 A氏がつづける。

「頭はピカイチっすよ。英語だけじゃなく中国語、フランス語、ドイツ語、全部ペラペラなんです。あとスペイン語も喋ってた。どこで覚えたのか聞いたら、飛行機の免許取りに行ってるときに覚えたんだそうです。『いろんな言語の人たちと知り合ったから、その人たちとコミュニケーション取るには、母国の言語を使った方が絶対に信頼されるんで』って。いや、言ってることはわかるんですけど、普通の人は覚えられないから英語をやるんでしょ、って。でも彼は全部難なく喋れるようになるらしいんですよ」

 言語に長けた寺内受刑者は「一番すごいと思う人は麻原彰晃」と豪語し、オウム真理教関連や、心理学、洗脳関係の書籍を愛読していたという。女子生徒の誘拐や監禁について、彼はA氏にこう語ってもいたという。

「誘拐したのは彼女が中学生の頃でしたけど、彼女を初めて知ったのは小学校3年生の頃です。声をかけるまでに、その子がどんな性格か、どんな行動をしているか、家族関係に至るまで全て調べたそうです」

 A氏に対し、家の鍵はかけてなかったこと、女子生徒が複数回、一人で外出したが戻って来たことなどを語った寺内受刑者は、民事的な責任についても“問われることはない”と「計算」していた。

「彼女が私と接点取りたいわけはないんです。民事になれば、裁判をまたやらないといけない。私が出所する頃、彼女は25歳くらい。もし結婚してたら裁判やりたくないですよね。ましてや過去を消したいでしょうから、でしたら僕と裁判することないじゃないですか」

 それらを聞いた後、A氏は問い詰めた。

「彼女に対して、悪いことしたって思ってる?」

 すると寺内受刑者はどこか遠くをみながら、こう言ったという。

「思ってます。2年間、僕の元にいたことで、ちゃんとした教育を彼女に受けさせることができなかった。そこが彼女にとっていちばんのマイナス。そこは私が、彼女に申し訳ないことをしたと思うとこですね」

 もっとも、見知らぬ女子生徒に、一生消すことのできない恐怖を刻みつけたことについては思い至っていないようだった。その感覚にA氏は驚いたという。

「宗教関係の本に夢中で、マインドコントロールにも関心があった。それを実践してみたかったみたいです。ある意味、あの犯罪が、彼にとっては実験だったのかなって。捕まることはもちろんわかっていたようですし。『いつか崩壊することは最初からわかってます。それが代償ですから』なんて言っていましたから。

 彼がやりたかったのは恋愛じゃない。洗脳とか自分が学んだことを実践したかっただけ。車の免許をとったから車を運転したいのと一緒です。そういう感覚で人を見てるんだと思います」

 こう言うA氏は、出所後にさらに彼がまた別の人を“洗脳”しようとするのではないかと危惧する。

「頭の良さはピカイチですから。そういったところに、興味を持つ女の子は絶対いますからね。彼は刑期を終えても40歳前ですからね。怖いです」

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴ライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』など。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月7日掲載

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