北朝鮮で滋賀県の男性が拘束 2年間抑留された元“日本人スパイ”が今後を予測

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どんな罪でもでっちあげる国

《私は、社会主義が計画経済を遂行する上で必要とする強大な国家権力が必ず体制下の国民生活を圧迫するとの確信を持っておりましたので、六〇年安保の世代でありながら、当時、マルクス経済学者たちが、社会主義へ移行するのは人類にとって歴史的必然であると学生や社会を扇動していたことにも、本能的なおそれと疑問を抱き続けておりました。

 日本経済新聞に入社後も、なぜ全世界が社会主義化しないのか、それどころか社会主義諸国の経済発展がなぜおくれているのかをみずから検証するために、旧ソ連、旧東ドイツ、中国、ベトナムなど社会主義国めぐりをし、この延長線上に北朝鮮があったわけであります。

 私は、一九八六年の第一回の訪朝の後、同じ日本経済新聞社に勤めている同僚記者に、内閣情報調査室と公安調査庁関東公安調査局に連れていかれまして、その当局から日本の安全のために協力してほしいと懇請され、ささやかな愛国心から協力を約束しました》

 杉嶋氏に自らの体験を踏まえ、今回の拘束事件の分析を依頼した。杉嶋氏は「北朝鮮という国家は目的のためなら、どんな罪でもでっち上げることを再認識すべきです」と指摘する。

「基本的に、北朝鮮の観光で自由行動は存在しません。旅行中は常に『指導員』というガイド兼通訳が監視しています。拘束された滋賀県の男性は、自分でレンタカーを運転して南浦に到着し、身を隠しながら軍港の写真を盗撮したわけではないでしょう。そんなことは不可能です。観光地の1つとして案内されたのは間違いありません。事実、私も1986年に南浦を観光しています。れっきとした観光名所なのです。そんな状況で本当にスパイ行為が可能か、極めて疑問なのは言うまでもありません」

 拘束された杉嶋氏は北朝鮮当局から取り調べを受け、5日目の朝に衝撃的な事実を突きつけられる。内調や公安庁に提供したビデオ、写真、テープ、資料などの全てが、北朝鮮側にコピーやダビングされて送られていたのだ。先に紹介した『北朝鮮抑留記』には、以下のような場面がある。

《彼(編集部註:北朝鮮の取調官)は続けた。「貴方は特に公安庁では高い位置付けにあり、貴方の特徴として『カメラの腕はプロ並み、経済学の知識は相当なもの』と記述されている。貴方の提供情報で担当官(多分、K・K法務事務官)は庁内表彰もされた」と言っていた》

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